233話 論文を読むのが、楽しい



 きっかけは、タイ音楽の歴史を探っているときだった。音楽の歴史を社会との関連で知るには、ラジオ放送の歴史を調べるのがいいと思い、インターネットで探ってみると、こういうレポートが出てきた。
 “Radio Broadcasting in the Days before the National BroadcastingService of Thailand Come into Being ”
 A4に印刷して、10ページくらいになるタイ国ラジオ史の資料で、知りたかった芸能との関係は、「まあまあ」という程度だが、質と量のある資料なので、読んでいて楽しかった。
 そこで、本格的に、きちんとした資料を読んでみたくなった。ネット上にあまたある「感想」や「意見」や「引用」などどうでもいい。読みでのある論文を読 みたくなったのである。従来なら、学術誌や大学の紀要などは、大学の図書館に出かけるか、たまたま神田の古書店で見かけたときに買うしかなかった。そうそ う、先日、国立民族学博物館関連の論文集が文字通り山積みで売られていた。欲しい資料はもちろんあったが、それらを買い込むと、たちまち数万円にもなるの で、買うのはきっぱりと諦めた。カネもないが、本の置き場所もない。
 インターネットの時代に入り、貧乏人でも学術論文が手軽に読めるようになった。“googlescholar” を使うのだ。googleの最初のページにある「サービス一覧」をクリックして、次の画面左下の “google scholar 世界の学術論文を検索”をクリックすると、検索画面がでるから、キーワードを入れて検索すればいい。あるいは、国立情報学研究所(CII)のホームページから、CiNii(NII論文情報ナビゲーター)に入る方法もある。
 このとき注意することは、資料を探すだけならそのまま検索してもいいが、モニターで資料を読みたい場合は、「本文あり」を指定してから検索すること。不幸にして有料論文に当たってしまうこともあるが、その場合の対処は自分で決めてください。
 この雑語林では珍しくガイドのようなことをやってしまったが、基礎だけ教えれば、あとは自分の関心分野の論文を探せばいい。この論文遊びの欠点はただひ とつ、紙とインクがすぐなくなることだ。30ページや40ページの論文などいくらでもあるから、次々に印刷していると、たちまちインクがなくなる。だから といって、まさかモニターで全文読む気にはなれず、しかたなく、プリンターを絶え間なく働かせている。
 というわけで、プリントしながら読んでいった論文のいくつかを紹介しておこう。結果的には、「東南アジア研究」(京都大学)に発表された論文が多かっ た。だから、のちには直接、「東南アジア研究」のサイトから入るようになった。そのほうが、目次もあって見やすく、なぜか我がパソコンの動きもずっと早 い。 こんな論文が見つかりました。
■「植民地期インドネシアにおけるラジオ放送の開始と音楽文化 ―『NIROMの声』が描く音楽文化」田子内進 インドネシアの音楽に関心があれば、この筆者の名で検索すると、ほかにも論文がでてきます。
■「食物をめぐる人と自然の関わり ―東北タイでの事例から」藤田渡
■「シンガポールにおける寿司の受容 ―寿司のグローバライゼーションとローカライゼーションをめぐって」呉偉明、合田美穂
■「ミャンマーにおける発酵米麺(モヒンガー)の成分と微生物の特徴」池田昌代ほか
■「カンボジアにおける発酵米麺の製造方法と食し方について」池田昌代ほか
■「ラオスにおけるカオプン製造工程中の成分変化」加藤みゆきほか
■「タイにおける発酵米麺の改良とその特性」小林明奈ほか
■“The Vietnam War and Tourism in Bangkok’s Development , 1960−70 ” By Porphant Ouyyanont

 ほかにも、読みたい論文が見つかったが、60ページを越えるものは、印刷するのにまだためらいがある。