476話 インスタントラーメンは、マルタイ

 
 もう40年ほど前になるか。インドの安宿で、日本人旅行者たちと雑談していたら、話題は自然に日本の食べ物のことになり、「カレーは日本に限る」とか「ああ、ラーメン、食いたい」といった方向に流れていったときに、ひとりが言った。
「あんたたちは知らないだろうが、九州にはうまいインスタントラーメンがあって・・」
 そこで、すかさず、私が「それ、マルタイのこと?」と言うと、「おお、あんたも九州人か。うれしいなあ。どこ? 福岡?」と、満面の笑みを浮かべて握手を求めてきた。
「いや、九州には行ったこともないよ。うちの近所のスーパーにあるから知っているだけ」と言うと、ヤツは悲しそうな顔をした。
インスタントラーメンというと、大多数はチリチリと縮れ、ふがふがと頼りない食感の麺なのだが、九州は福岡のマルタイのラーメンは棒状で、なめらかだ。その昔、私が黄色い袋のマルタイのラーメンをよく買っていたのは、もちろんうまいということもあるが、安いのも魅力だったからだ。2食分がひと袋に入っていて、その1食分は通常の袋麺よりもちょっと少ないが、キャベツや白菜など野菜を多めに入れたり、麺を食べた後にご飯を入れて雑炊にすれば、量の問題は解決できた。
 いまから5年ほど前のこと、近所にやや大きいスーパーマーケットができて、麺売り場をチェックしたら、マルタイの新製品が出ていることを初めて知った。なつかしのマルタイだ。じつは、ここ何十年も、インスタントラーメンはほとんど食べていなかった。うまいと噂の「正麺」(東洋水産)を試してみたが、残念ながら「ぜひ、また買いたい」というほどの舌触りではなかった。カップ麺は、麺のうまさがまるでないので手を出さない。私には塩分が強すぎる。うどんなら、冷凍のほうがいい。というわけで、インスタントの麺は袋入りのやきそばだけを買っていただけだ。焼きそばも、カップ麺はあまり好きではない。野菜を多く入れたいので、やはり袋入り麺がいい。ひとり分だけ食べられて、保存に適しているという2点を考えると、生麺という選択はない。袋入り焼きそばという分野では、サッポロ一番(液状ソース)と日清(粉末ソース)が両雄だろうが、私は日清を愛用している。
 できたばかりのスーパーで見つけたマルタイの新製品は、パッケージも食欲をそそる九州ラーメンシリーズだった。「博多とんこつラーメン」、「熊本マー油とんこつラーメン」、「鹿児島黒豚とんこつラーメン」の3種類が置いてあったが、マルタイのホームページで調べると、このシリーズは全部で7種類あるらしい。
http://www.marutai.co.jp/products/stick/ほかにも棒状ラーメンがいくつもあり、食欲をそそる。
 麺はつるつると舌ざわりのいい棒状の麺で、とんこつスープだから、この手のラーメンが嫌いな人には向いてないだろうが、私は気に入っている。Tシャツ、バンダナのラーメン屋に行くよりも、自宅でこのラーメンを食べているほうが好きだ。スープがうまいので、このスープを使って鍋物を作り、最後に麺を入れて終わりにするという食べ方もある。
 自宅近くのスーパーで見かけない場合は、アマゾンで買うこともできるが、まとめ買いになるので、どうしても一度に大量に買うことになる。
そういえば、思い出した。九州で初めてラーメンを食べたのは、インドでマルタイの話をした2年後だった。
 日本の南部を旅していた時だ。沖縄から鹿児島に行き、地元の人の案内で天文館そばの民家でラーメンを食べた。特別の印象はなかった。別府では、カルカッタで会った旅行者と再会した。彼と行ったラーメン屋で、生まれて初めて白濁スープに出会った。
「これ、牛乳を入れているんですか?」と店の人に聞いて、ケゲンな顔をされた。有楽町のガード下に「ミルク・ワンタン」なるものを食べさせる店がある。ワンタンスープにミルクが入っているのだ。その亜流で、ラーメンのスープに牛乳を入れたのだろうと思ったのだ。黄色い袋のマルタイラーメンは白濁スープではないし、鹿児島のラーメンも通常は白濁スープではない。その年、1975年が、私が初めてとんこつ白濁スープのラーメンを食べた年であり、当時はまだ東京でも福岡式のラーメンを出す店はほとんどなかったと思う。
★ミルク・ワンタンを出す店「ミルクワンタン 鳥藤」は、いまもある。
http://tabelog.com/tokyo/A1301/A130102/13021709/