期待したんだけどなあ
沖縄人の異文化接触体験記の本ならおもしろそうだと思ってその本を買った。書店で現物を見ていたら買わなかったが、アマゾンで見て、この出版社なら間違いないと思って注文したのだが、期待通りのおもしろさはなかった。
『内地の歩き方 沖縄から県外に行くあなたが知っておきたい23のオキテ』(吉戸三貴、ボーダーインク、2017)はタイトル通り、沖縄人の内地(沖縄以外の日本)カルチャーショックのコラムだろうと思った。大阪人の東京生活コラム『大阪人の胸のうち』(益田ミリ、光文社知恵の森文庫、2007)のような本を予想したのだが、アパートの探し方とかヒトとの距離の取り方といったごく普通の上京アドバイスだった。「那覇のアパートと比べて東京では・・・」といった比較、私は知らないのだが敷金や礼金などに違いはあるのかとか、沖縄と東京や大阪の家賃の相場の違いいったことが書いてあるのかと思ったが、そういう話はまるでない。
この本は、全体的に、私が期待した「沖縄らしさ」はまるでないのだ。音楽映画の話で雑談をした音楽評論家の松村洋さんは沖縄音楽の本も書いていて、沖縄をよく知る人なので、この本の話をメールで送ると、「つまり、沖縄の若者に、沖縄らしさがなくなってきたということだと思うんですよね」ということだった。「沖縄に電車がないから、終電を気にせず飲む」という話はよく聞くが、東京圏など大都市圏を除けば、「飲んで、電車で帰宅」という発想はない。「運転代行」が常識なのは、沖縄だけではないから、「終電云々」の話は、沖縄に限った話ではないということだ。
沖縄の本で「これはいい」と思ったのは、『沖縄ぬちぐすい事典』(尚弘子監修、プロジェクト・シュリ、2002)だ。食材などがカラー写真で解説しているので、沖縄の食文化を知りたい人に役立つ。ぬちぐすいは漢字を当てると、「命の薬」。体にいい食べ物の意味。
食文化と建築と食べられる植物の本は、専門的な内容でも読みたくなる。『飲食朝鮮 帝国の中の「食」の経済史』(林采成、名古屋大学出版会、2019)は5400円もするので、思い切って買ったのだが、隔靴掻痒。やはり、高い本は期待値が高いせいか、「当たる」率が低い。
本屋で見た文庫に、「添乗員」という語が目に入った。『添乗員さん、気をつけて』(小前亮、ハルキ文庫、2019)という本だ。著者名にまったく心当たりあないので、著者紹介を読む。「1976年島根生まれ。東京大学大学院修士課程修了。専攻は中央アジア・イスラーム史。2005年に『李世民』でデビュー。・・・・・」
歴史や宗教の研究者が添乗員を主人公にした旅行モノ小説なら、おもしろいかもしれない。この文庫には、ウズベキスタン、ベリーズ、エチオピア、インドを舞台にした4つの物語が入っている。おもしろそうじゃないか。ウズベキスタンを舞台にした「青の都の離婚旅行」を読んで、「なんだ、これ?」。ベリーズを舞台にした「覆面作家と水晶の乙女」も、せいぜい観光案内小説で、それ以上の読ませどころなど、なにもない。そのツアーでどこに行き、何を見たかというだけの、旅行パンフレット小説だ。残りの2編は読まないと決めた。買ってすぐ、天下のクラマエ師や田中真知さんに、「きょう買ったんだけど、もしかして、おもしろいかも」などと言ってしまったが、旅行人双頭に勧められるような本じゃまるでなかった。ああ、恥ずかしい。
これから旅行に行きたいという人向けに、旅行案内小説というジャンルがあってもいいと思う。日本の温泉地や鉄道を舞台にした小説はすでにあるが、外国が舞台で、旅行地の歴史や見どころなどが載っている旅行案内小説は、腕のある小説家が書けばおもしろくなるだろうとは思うが、腕のある小説家はハーレクイン・ロマンスのような小説は書かないだろうな。