お好み焼き大全
世に、写真中心の食べ歩きガイドと文章によるエッセイと、レシピ本は多いのだが、食文化研究書は多くなかったのだが、最近内外の食文化概説書や研究書が多く出版されるようになった。喜ばしいことではあるが、あまり売れない研究書だから、どうしても高額になってしまう。
そんな食文化研究書のなかで、『お好み焼き物語』(近代食文化研究会、新紀元社、2019)は異端の本だ。まず、著者だ。団体のようで実は個人のペンネームというのは劇団ひとりか。研究会という団体として始まったわけではなさそうなので、グループで始まったがひとりになったZARDやSuperflyではないようだ。
脱サラのライターだそうだ。さまざまな資料をデジタル化して検索して、ある料理が文字資料に登場する歴史を調べ上げるという工夫で、資料の出典を明記している。つまり、俗説を資料で検証する姿勢が整っている。
お好み焼きは東京から始まったという説は、この本以前から読んで知っていたが、詳しい資料を添えて解説している。その概要をここで書く気はないが、引用されている田辺聖子のエッセイをここで再び引用してみよう。
「私が女学生のころは、『お好み焼き』という名称が東京からはやり、一軒の店になっていた」(「大阪のおかずほか二編」)
「一軒の店になっていた」というのは、関西では屋台のような店だったが、ちぇんと店を構えたお好み焼き屋ができたという意味だ。
ソース焼きそばは東京のお好み焼き屋で生まれた。お好み焼きの鉄板で焼くから、「炒めそば」ではなく、焼きそば。東京では、中華麺が容易に手に入ったので、ソース焼きそばは東京から広まったという説など、日ごろ「日本焼きそば史」に興味がある私には、刺激的な資料だった。このように、この本は通読するだけでなく、折に触れ参考記事を探す資料としても使える力作である。
昨年暮れ、インドの食器や調理道具を輸入販売しているアジアハンターの小林真樹さんに会った。『日本の中のインド亜大陸食紀行』(阿佐ヶ谷書院、2019)を出していることは知っていたが、インドの食文化本じゃないから、後回しにしようと思い、アマゾンの「ほしい物リスト」に入れっぱなしになっていたのだが、偶然出会ったのも何かの縁、すぐさま購入を決定。届いた本を眺める。早く買っておけばよかった。おもしろそうだ。しかし、まだ『消えた国 追われた人々』ほか、数冊を読みつつあるから、インド本を読むのはまだ先だ。このコラムも書き始めたし・・・。
年が明けて、2020年に小林さんのインド食紀行本が旅行人から出ると知った。私のインドの食文化の知識は著しく劣るので、今年は少々勉強しておこう。インド料理の本はあまたあり、食文化研究書も、日本語だけでも『食から描くインド 近現代の社会変容とアイデンティティ』(井坂理恵・山根聡編、春風社、2019)など学術論文が多く出ているので、料理本が避ける歴史なども補強できるだろう。