1455話『食べ歩くインド』読書ノート 第3回

 

 

 前々回、食べ歩きガイドはいままでほとんど買ったことがないと書いたが、正確に言うと、あれは誤りだった。日本の食文化史を知るために、かなり昔に出版された料理店ガイドを買い集めたことはある。だから実用目的ではないが、資料として料理店ガイドは買ったことはある。

 『続・東京味どころ』(佐久間正、みかも書房、1959)で、「カレーライス」に分類されている店は、「サモワール」(江戸橋)、「ナイル」(銀座)、「中村屋」(新宿)、「富士アイス」(有楽町)、「レストラン・サンバード」(銀座西、高速道路下)。

 『日本で味わえる世界の味』(保育社カラーブックス、1969)で紹介しているインド料理店は、銀座の「ナイル」ただ1軒。

 時が流れて1984年、『東京エスニック料理読本』(アルシーヴ編、冬樹社)が出た。その料理店リストから、インド料理店に分類されている店を書き出してみる。「アジャンタ」(九段)、「アショカ」(大阪市北区)、「アショカ」(京都市)、「アショカ」(銀座)、「デリー」(銀座、上野)、「ナイルレストラン」(銀座)、「ナマステ・ジ」(神戸)、「マハラジャ」(横浜)、「ムルギー」(渋谷。「カレー店」の分類)、「ベンガル」(渋谷。「バングラデシュ料理」の分類)、「モティ」(赤坂、六本木)、「ラリグリス」(埼玉県鶴ヶ島町、「ネパール料理店の分類)。

 記憶を呼び起こすと、「アショカ」(銀座)、「ナイル」、「ムルギー」、「モティ」に行ったことがある。アショカは、インド政府観光局と同じビルに入っていたという記憶があり、インド旅行の情報を集めに行った帰りに立ち寄った。「モティ」は雑誌の取材だ。1970年代のインド料理体験は、310話(2011-02-11)ですでに書いた。

 九段のアジャンタで料理修行をして、雑誌「オデッセイ」でインドの食文化のイラストルポを書いていた浅野哲哉さんの『インドを食べる』(立風書房、1986)と『風来坊のカレー見聞録』(早川書房、1989)も、本棚から見つかった。『インドを食べる』出版後、浅野さんに会ったことがある。有望な書き手だと期待していたのだが、インド食文化の研究やイラスト付き旅物語という企画に関心があるかどうか以前に、文章を書くこと自体にもはや興味がないようで、食文化研究の新星を失った。この2冊の本のそばにインドやスリランカ料理の本が数多くあり、「ああ、こんなに買っていたんだなあ」と驚くのだが、4度目のインド旅行を計画することにはならなかった。

 私が関心のある食文化の資料は、インドに関しては「朝日百科 世界の食べもの」以後ずっと出版されなかったが、2006年に『世界の食文化 インド』(小磯千尋・小磯学、農山漁村文化協会)が出た。食文化史や宗教と食文化、食材、食のグローバル化、台所と調理用具などについても言及した本で、世間に数多い「カレー本」とはまったく違う。『食べ歩くインド』でこの本を「参考文献」に挙げていないのは、内容に問題ありということなのか、あるいはこの程度の資料は英語文献でいくらでも出ているからということなのだろうか。

 前説が3回分あったが、次回から、いよいよ読書ノートを始める。