1454話『食べ歩くインド』読書ノート 第2回

 

 

 『食べ歩くインド』が出るまでに私が読んだインド食文化関連書のいくつかを書き出してみよう。

 国会図書館の蔵書リストで、書名に「インド料理」という語が入っているもっとも古い本は、タイムライフブックスの「世界の料理」シリーズの1冊、『インド料理』(サンタ・ラマ・ラウ、1974)である。1970年代はもちろん1980年代前半になっても、西洋料理と中国料理以外の日本語資料を探すと、このタイムライフブックスのシリーズしかなかった。その時代、このシリーズの『太平洋/東南アジア』 (1974)を熟読玩味していた若きライターが、私と森枝卓士である。「あのころ、このシリーズしかなかったよね」とのちに話題に出たことがある。

 『インド料理』の著者サンタ・ラマ・ラウに関しては、すでにこのアジア雑語林の441話(2012-09-12)で書いた。著者は6歳でインドを離れ、イギリスやアメリカで暮らしてきた人なので、インドの生活体験はほとんどないようだ。だから、この本の内容も伝聞や文字資料によるものだろうが、そういう問題点を云々する以前に、「これしかない」というのが現実だった。だから、神田神保町の古本屋悠久堂にせっせと通い、この「世界の料理」シリーズを買い集めたのである。

 食文化研究者のタマゴにとって、その次に出会った有益な資料は、朝日新聞社から出た「朝日百科 世界の食べもの」だ。1980年から3年間にわたって全140冊が出た。編者グループの中心となったのが石毛直道さんだから、西洋料理中心になることはなく、アフリカも中東も視野に入れた名シリーズで、現在でもこれを超える資料はない。定価460円で140巻だから、単純計算で総額6万4400円だ。超ビンボーライターには手が出ない。そこで、悠久堂で折に触れて数部ずつ買っていたが、手に入らない巻も多く、ちょうどそのこと朝日新聞社でちょっとした仕事をしていたので、社員に頼んで社員割引きで買ってもらったりもした。そういえば、開高健の『もっと遠く!』、『もっと広く!』の2冊も、社員割引きで買ってもらったことを思い出した。今、古本事情を調べると、この2冊セットで2万円ほどするらしい。

 そういえば、朝日新聞社で編集の手伝いをしていたそのころ、旅行雑誌「オデッセイ」時代からの知り合いで、「ガロ」などで漫画を描いていた清宮政子さんと社内通路でばったり会った。彼女は、社内のどこかの部屋でブックデザインの仕事をしているといった。「旅に出たいね」などと、立ち話をした。それから長い月日が流れ、バンコクジュライホテルの前でばったり出会い、その数年後に『路上のアジアにセンチメンタルな食欲』(筑摩書房、1988)のデザインを担当してもらうことになったという話に進むと、横道にそれすぎて長くなるので、割愛する。

 このコラムの下調べのため、今、ウチの食文化棚を点検したら、忘れていた本が何冊も出てきた。次回はその話を。