1463話『食べ歩くインド』読書ノート 第11回

 

 

P255赤蟻・・テレビの仕事でタイに行った。タイ人の取材コーディネーターが案内したのはガーデンレストランだった。取材ではなく、その日の夕食なのだが、運ばれてきた料理を見て、昆虫料理専門店だとわかった。「また、これかよ。タイに来るたびに、こういうのばっかり」とカメラマンが言った。その日は昆虫食の取材ではなく、われわれ日本人を驚かそうというコーディネーターのいたずらなのだが、残念ながら、日本人スタッフ全員が見慣れた食材ばかりだ。私も多くの昆虫を食べてきたが、姿は見ていても食べたことがない赤アリの料理がテーブルに運ばれてきた。スープに浮いているのが白いタマゴを抱いた赤アリで、少し酸味がある。アリを口に入れるのだから、舌触りが良いわけはない。

 世界には、昆虫を食べる人たちと、食べない人たちがいる。インドシナではよく食べられているが、イスラム教徒は食べないから、マレーからインドネシアでは、あまり食べられていない。調べたことはないが、インドではあまり食べられていないと思う。『食べ歩くインド』に赤アリが登場したのは、248ページから山に住む少数民族の食生活を紹介しているからだ。この本のすばらしさは、インドをヒンドゥーイスラムだけで見ず、こういう地域にも足を延ばしていることだ。

P286キャベツの千切り・・「・・・インド亜大陸では千切りキャベツはマニプル州以外ほとんど見ない」。そうですか。キャベツは熱帯の平地では栽培は難しいが、高地はいくらでもあるから、栽培できないわけではないから、まあ、インド人の好みにあまり合わないという事だろう。それとも、この文意は「千切りでなければ、キャベツはインド各地で食べられている」という意味だろうか。

千切りキャベツ入りのインド風炒飯が、これ。鉄板ではなく鍋を使えばいいのにといつも思う。

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 インド人とキャベツということで言えば、クアラルンプールのインド料理店街を思い出す。屋根がある屋台街、あるいはくたびれたインド料理のフードコートという場所だが、あらかじめ作った料理が並んでいるから非インド人である私には便利で、よく通った。ある日の午後、そこに行くと、1軒の食堂で仕込みをしていた。それが、キャベツの千切り炒めだ。インド人が中国料理の鍋とひしゃくで、鍋をあおりながら炒め物をしているという図はなかなかに興味深いもので、しばらく眺めていた。料理人は、何種類かのスパイスを鍋に放り込んだ。キャベツは黄色くなり、塩で味付けて完成。インドではポリヤルという名の料理なのだが、日本風に言えば、「キャベツのスパイス炒めマレー風」だ。

 上に書いたマレーシアのポリヤルの話は、このアジア雑語林485話に書いている。

 タイでは生のキャベツは非主流派の野菜である。東北タイの料理を注文すると、生の野菜やハーブ類が山盛りになってテーブルに来る。その中にキャベツもある。タイの麺料理としては非主流派のカノムチーン(コメが原料の、ヒヤムギのような麺)にも、ハーブや生のキャベツがついてくる。魚のスープを皿の麺にかけて食べるのだが、山盛りのハーフや野菜のせいで、サラダのようである。

P297・・このページ下段の魚市場の写真を見て、並んでいる魚の正体を知りたくなった。タイで淡水魚を見てきた経験から、ナマズの仲間だろうと予想した。ナマズというと、日本人は黒くヒゲのある魚を思い浮かべるだろう。タイでも、その種のナマズが主流なのだが、ナギナタナマズなど、白く大きいナマズも数多くある。

 素人がいろいろ調べた結果、ナマズ科ではなく、ナマズ目バンガシウス科の英語名basa,学名はPangasius bocourti。これだろうと推測した。日本でも白身魚の代用品として輸入されているらしい。ただし、私のこの調査が正しいかどうかわからない。しょせん、素人の遊びだ。

 魚と言えば、257ページに、タウナギの写真が出ているが、デカイ。タイでよく見るタウナギは、体長20~30センチほどだ。資料を調べると、80~100センチほどになることもあるという。写真のタウナギは60センチ以上ありそうだ。タウナギは強い匂いがある魚だから、タイでもスパイスやハーブを大量に入れて料理する。

 魚の料理法として、259ページには、魚を串にさして炙り焼きにする料理を紹介しているが、この料理法は、おそらく中国でもインドでも非主流ではないかと思う。日本人は、魚の直火焼きが大好きだから台所のガス台にロースターがついているが、大都市でも魚の直火焼きをする国は多くないと思う。が、中南米は、あるなあ。

 できることなら、誰かが『インド市場図鑑』を書いてくれるといい。執筆者には、動植物魚貝類に加工食品の専門家も必要で、まともに作れば、オールカラー600ページ、定価2万円は軽く超えるだろうが、1000部は売れるかなあ。需要はあまりないだろう。「インドに行って、本場のカレーを食べるぞ! 作り方を学ぶぞ!」という人は多いだろうが、残念ながら食文化を深く知りたいという人はとても少ない。スパイスやハーブの図鑑はあるのは、インド以外に興味がある人も使えるからだ。