1994話 最近読んだ本の話から その5

 

 ■全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路』新潮文庫)や『全国マン・チン分布考』 (インターナショナル新書)などの著作がある放送人(朝日放送)が、今度はここ数十年間に若者が使うようになった表現から、芸人起源ではないかと疑問から調べていったのが、『どんくさいおかんがキレるみたいな』松本修新潮文庫、2013)だ。関西ではダウンタウン、関東ではとんねるずが言い出しっぺではないかという予測から、関係者に聞き込みをしていく。歴史的に、関西で両親を「おかん」「おとん」と呼ぶようになったのはいつからで、放送で使われるのはどういういきさつかといった調査で、やはり力作。

 なお、『全国アホ・バカ分布考―はるかなる言葉の旅路』に関しては、すでに1592話で少し書いている。

 ■小説家西村賢太(1967~2022)の日記は角川書店からは5冊出版されている。第1巻は2011~2012年、最終の第5巻は2015~2016年までの日記。アマゾンではこの第5巻は1冊だけ出品されていて、17800円だが、新刊書として1900円(本体)で今も販売している。その後、本の雑誌社から日記シリーズの第6巻として、『一私小説書きの日乗 新起の章』(2018)を出している。2016~2018年の日記だ。本の雑誌社から税込み1944円で発売中だが、アマゾンでは9800円。アマゾンで高い値段がついているからと言って、もう「品切れ増刷未定」で入手困難だと思い込んではいけないという教訓。本の雑誌社からはもう一冊、2018年2020年までの日記『一私小説書きの日乗 堅忍の章』(2021)を出版している。これで、日記は全7冊となる。ただし、「本の雑誌」連載分で、単行本未収録分がある。

 7冊出版された日記のうち、いまのところ第2巻まで角川文庫に入っている。2000円の単行本が、1000円の文庫になるというのが現在で、古い単行本だと新刊の文庫の方が高いということもある。

 角川文庫版の日記第1巻『一私小説書きの日乗』は2014年の出版。西村が芥川賞を受賞したのは2010年下半期。その発表は2011年1月で、この日記は2011年の3月7日から始まっている。受賞後のあわただしさと仕事漬けの日々が綴られてる。いままで西村の単行本はおろか雑誌の文章さえ読んだことがないから、この日記は、今まで出版界であまり重要視されていなかった小説家の扱われ方といった点に興味があって読んだ。西村ファンでなくても、出版界に興味があればおもしろく読めると思う。年収を公開しているから、芥川賞受賞前でもけっこう稼いでいたことがわかる。日記第2巻の文庫版『一私小説書きの日乗 憤怒の章』が出たのは、2022年5月。西村はその年の2月に急死しているから、この文庫は目にしていない。この文庫ももちろん買ってあるが、「あとのお楽しみ」として積んである。