“Then and Now”とか、”Now and Then” といったタイトルの本は数多い。ある場所の昔と今の景色の違いを比較するような本が好きだ。現在をよく知っている場所なら、昔の風景写真だけでもいい。視覚で歴史がわかるのが興味深い。
クアラルンプールの書店で、”Earth Then and Now”という本を見つけた。旅行中持ち歩くのは嫌で、帰国してから買えるだろうと思い買わなかった。帰国してアマゾンで調べたら、同じ名の本が多いのだが、私が買ったのはこちら。
http://www.amazon.co.jp/Earth-Then-Now-Jim-Lovelock/dp/1845335856/ref=sr_1_1?s=english-books&ie=UTF8&qid=1352949745&sr=1-1
アメリカから取り寄せて、送料込みで1300〜1400円ほどだから安い。マレーシアで買うより安かった。
この本は風景の今昔物語だ。気候の変化によって、氷河が消えた山岳地帯とか、海から突然生まれた島とか、戦争で爆撃された街とその後の風景というのもある。ニューオーリンズのように、洪水で床上浸水の風景は珍しくもないが、干ばつにより干上がったダム(ベネゼーラのトポシ)の写真は、説明文を読まないと風景の意味がわからなかった。ニュージーランドのクック山の昔と今の写真を見ると、姿がだいぶ変わっている。山頂部分が崩落したのだ。なんだか興味深いので、ネットで画像検索してみたくなった。
じつは、この本は値段相応の内容で、さほど迫力ある写真が詰まっているわけではない。消えたアラル海の話題など、テレビなどでさんざん紹介されているから、珍しさはない。「都市化」という章もあるのだが、それならば中国広東省の深圳市(しんせんし)などを取り上げれば、その変化のすさまじさがよくわかるはずだ。まだ中国に自由に行けなかった1974年に香港から眺めたことがあったのだが、その当時の深圳は水田しかなかった。水田にアヒルの鳴き声が響いていた。家は数軒見えただけだった。マカオから見える中国も同じようなものだった。鉄筋コンクリートの建物は、1軒も見えなかった。そういう風景の「昔・今」を取り上げれば、中国の都市化のすさまじさはよくわかるはずだ。
そういう不満はあるが、この本を目次にしてネットで画像検索して、さらなる「昔・今」写真を探して、もっと情報を集めた。そういう読み方をしていたので、読み終えるのにちょっと時間がかかった。
つまり、この本は、本のままで完結するのではなく、とてつもない情報量を持っているデジタル資料の目次として、あるいはきっかけとして利用するのがふさわしい。「昔今遊び」の前菜として使うのもいい。例えば、もっとこの遊びをしたくなったら、自分が興味のある場所をローマ字で入れ、そのあとに”then and now”をつけて検索すると、有名な場所ならかなり遊べる。例えば、香港を調べると、こういう情報もわかる。
http://www.youtube.com/watch?v=pRh_dZUMhYw
ドバイなら、こうだ。http://www.youtube.com/watch?v=3-SRv6V44k4
いくらでも資料はあるから、私のような「昔今遊び」ファンは、時間を忘れて遊ぶから危険極まりないのである。
この本を読んでいてうんざりしたのは、説明文のデザインだ。たんなるデザイン上の感覚だけでしたことだろうが、説明文の活字が異様に小さいのだ。私の老眼鏡では読めず、メガネをはずして読まないといけない。だから、「すべてのグラフィックデザイナーは、老眼鏡使用者に限定する」というような法律でも作ってくれと言いたくなる。若いデザイナーは「見えない、読めない」という実感がないから、字の大きさなど「デザイン」の問題としか考えていないのだろう。これは老眼に限った話ではなく、すべての障害者や被差別者の問題に関しても言えることなのだろう。「その人の身になって」というのは、言うのは簡単だが、実際にはなかなか難しいものだから、問題はグラフィックデザインのことだけではない。