1363話 音楽映画の話を、ちょっとしようか 第7回

 マリア・カラス

 

 オペラは大嫌いなのに、マリア・カラス(1923~77)に感動したのは、たまたま、キップをもらったというだけの理由で映画「永遠のマリア・カラス」(2002)を見たからだ。伝記映画ではない。1974年の札幌のコンサート以後、世界的大歌手マリア・カラスは音楽の表舞台から姿を消した。1960年代から、すでに満足に声が出なくなっていたのだ。この事実を踏まえて、プロモーターが、彼女主演のオペラ映画を作ろうと企画するというのがこの「永遠のマリア・カラス」という映画だ。本人はもう歌えないから、全盛期に吹き込んだレコードに合わせて、口パクで出演させるというのだ。そういう構成がおもしろい。エディット・ピアフに関しては、ウィキペディア程度の知識と、5曲ほど歌声を聞いたことがあるだけなのだが、マリア・カラスに関してはその名前とオペラ歌手という職業以外、まったく知らなかった。

 この映画では、レコードの歌声が流れる。私は、映画館で彼女の歌声を初めて聞き、聞きほれた。嫌悪感がなかったのは、私が聞いた歌声が、もしかすると裏声のソプラノではなかったからかもしれない。映画館は、当然ながら、自宅とは音響設備がまるで違う。映画館で音に包まれた。映画だから、そういう場面を想定して曲を選び、音質を改善したのだろう。いままで耳にしたことがあるオペラのうたごえとはまるで違ったのだ。ただし、オペラを聞きたいという衝動は、映画館を出るとともに消え、以後出現したことは1度しかない。テレビの番組欄でマスカーニの「カバレリア・ルスティカーナ」を放送すると知って、録画して見たときだけだ。

 映画で流れたマリア・カラスの歌声は、どういう曲だったのか、もちろん覚えていない。ネットで調べると、「カルメン」らしい。

 ワルシャワを散歩しているときに、「ああ、そうだった、ここだった」と思い出したのが「戦場のピアニスト」(2002)だ。ナチスの焼土作戦にやられるワルシャワ。そこに身をひそめるピアニスト。ショパンの曲が多く使われていた。この映画はモデルとなる人物がいる。想像で作り出したピアニストが主人公の映画が、「海の上のピアニスト」(1998)で、こちらは1930年代のジャズが出てくる。この時代のジャズピアノがあまり好きではないが、映画そのものは「なんだか、悲しいな」という名品だった。

 私は、爆薬も銃撃戦もカーチェイスもなく、CGも使わない(ように見える)映画が好きだが、「戦場のピアニスト」はCGをたっぷり使っているだろうなあ。