2005-01-01から1年間の記事一覧

102話 古本のページの間に

新宿から四谷方面に散歩しているときだった。 住宅地の路地から路地へと徘徊していると、黒く大きな物体が視野に入った。3階ほどの建物なのだが、屋根はもちろん壁も真っ黒だった。壁はタイルか金属 でうろこ状でおおわれ、全体が巨大な甲冑、あるいは甲虫…

101話 新宿・鈴平

『植草甚一コラージュ日記 (1) 東京1976』(晶文社、2003)を読んでいたら、新宿の鈴平の名が出てきた。すっかり忘れていた名前だったが、そういえばそんな名前だったことを思い出した。 紀伊国屋本店の前に、「しゅうまいの早川亭」があり、そこの…

番外 「何かお探しでしょうか?」

アジア文庫 店主 「アジア雑語林」も、3月17日付けで100回を数えました。前川さんには、ほとんどボランティア状態で書いていただいていますが、当サイト内では、アク セス数の多い人気ページとなっています。改めてお礼申し上げます。ただ、時おり店主への課…

100話 不審な客

古本屋で本を探っていると、店主が声をかけてくることがある。「よくある」というわけではないが、いままで何度かある。 「なにをお探しでしょう?」 「専門は何ですか?」 「どういったものを・・・」 店主はそう声をかけてくるのだ。これが靴屋や洋服屋な…

99話 大人の字

テレビ番組では、フリップという厚紙をよく使う。ニュース番組では、ニュースの内容を図解したものを厚紙に書いて示す。クイズ番組では、出演者がフリップに答えを書く。討論番組でも、出席者にまずそれぞれの意見をかいてもらい、それから討論を始めること…

98話 事実と真実

私はウソがつけない。正直者だからか、それとも小心者だからかわからないが、ウソがつけない。もしウソをついたら、顔の表情が変わり、オドオドとし始めるから、ウソをついているとすぐわかってしまう。 だから、小説など書けないのだ。そもそも小説をほとん…

97話 まぼろしの烏龍茶

中国茶を初めて飲んだのは、たぶん小学一年生のときに行った横浜中華街の料理屋だろうと思うが、どんなお茶だったのかまったく覚えていない。覚えていない ということは、ひどく苦いとか、たまらなく臭かったという記憶もないということで、ジャスミン茶やプ…

番外 漢字変換の話(アジア文庫の場合)

アジア文庫 大野信一 前川さんのご指名とはいえ、漢字変換について話すには、私はふさわしくない。漢字の○○水準とか、○○コード、といったものがまるで分かっていないのだから。 ここでは、使い勝手のみで書かせてもらうことにする。これまで、ワープロや、い…

96話 漢字変換の話

原稿を手書きからワープロに変えたとき、友人たちからいくつかの経験談をきいた。 「注意しないと、やたらに漢字の多い文章になってしまうよ」 どういうワープロソフトを使うかにもよるが、変換の好きなソフトだと漢字が多くなるのはたしかだ。手書き時代に…

95話 皮肉なことに

海外旅行というのは、異文化理解に多大な貢献をするはずだと、なんとなく思っていた。日 本人が外国の地を訪れ、例え団体旅行であっても、写真やテレビではない実際の風景を目にし、街の音を聞き、そのなかで食事をしていれば、井の中の蛙時代と は違って、…

94話 インドと古本屋

インドではいくつものカルチャーショックを受けたが、物の値段が決まっていないという習慣には当初とまどった。値段が決まっていないというのは、定価というものがなく、正札がついていないということだ。 たとえば、布を買おうとする。 「これ、いくら?」…

93話 傍流のおもしろさ

私は酒はいっさい飲まないが、口に入れるもの全般には興味がある から、酒の本も一応目を通していたこともあるが、どうも趣味にあわない。世界の食べ物の本なら、屋台の料理も市場の立ち食いも取り上げるが、こと酒となる と、格好をつけて、権威が前面に出…

92話 平凡出版と東南アジア

『証言構成「ポパイ」の時代 ある雑誌の奇妙な航海』(赤田祐一、太田出版、2002年)は、1970年代から80年代に出版文化を知る上で、貴重な資料が詰まっているというだけでなく、読み物としてもよくできている。 この本を読んでいて、「へえ、そう…