192話 韓国語・朝鮮語など その2


 韓国語・朝鮮語のことを調べていて見つけた、TJF(国際文化フォーラム)の不思議な資 料の話の続きだ。「四年制大学の開設状況」というタイトルで、全国の大学での朝鮮語教育事情のリストがついているこの資料の出ところを、探らなくてはいけ ない。TJFというのは、講談社を中心に作った民間団体の「The Japan Forum 財団法人国際文化センター」のことで、そこが出している機関誌「国際文化フォーラム通信」に載った記事を、私がネットで見つけた資料だ。日本 全国の4年制大学で行なわれている朝鮮語教育の実状に関する資料で、大学名、大学での科目名、開設年、協力関係にある韓国の大学名の順でリストになってい る。
 このリストを見ていて、むらむらと調査の炎が燃え上がってしまった。「大学は、あの言語をいったいどう呼んでいるのか」という調査だ。私のこの原稿で は、いままで「朝鮮語」や「韓国語・朝鮮語」などと書いてきたが、どう呼んでも批判される難しい言語名だ。学科名や科目名として、大学はどういう名をつけ ているのだろう。一覧表を見ながら「正」の字を書いて、仕分けしてみた。資料の注釈に、学部等よって呼称がことなることがあることがわかる。したがって、 同じ大学でも、学部によって複数の呼称があるらしい。
韓国語 117
朝鮮語 100
ハングル 49
コリア語 27
韓国・朝鮮語など 30
ハングル語 5
その他 9

「韓国・朝鮮語など」には、韓国朝鮮語、朝鮮韓国語、韓国(朝鮮)語、朝鮮(韓国)語、 コリア語(韓国語)といった表記を含む。「その他」には、外国語と文化・韓国、韓国事情と文化、韓国の言語と文化、ハングル・韓国語、朝鮮言語文化特論、 言語と文化(韓国・朝鮮)、ハングルと文化、世界の言語と文化(韓国語)、韓国のことばと文化、といった表記がある。

 こういうテーマになるといつも気になるのが、「ハングル」である。皆様ご存知のように、 ハングルというのは、韓国語(韓国のことばという意味)で朝鮮の文字のことで、北朝鮮では「ハングル」とはいわない。したがって、「ハングルを読む」こと はあっても、「ハングルを話す」人は世界にひとりもいない。そういうことはわかった上で、NHKは「ハングル」を言語名として扱っている。だから、「アン ニョンハシムニカ ハングル講座」では、講師が「さあ、この日本語をハングルで言ってみましょう」などと平気でしゃべっている。韓国語といっても、朝鮮語 といっても抗議がくるから、「ハングル」にしようとNHKは決めたのである。
 その悪影響が大学に及び、朝鮮語の科目名を「ハングル」にしている大学は49あり、もっとひどい「ハングル語」にしているのが5校ある。諸悪の根源は NHKである。「ハングル語」などとするトンマな大学はどこなのか、TJFの資料で明らかにしておこう。ただし、この資料は2003年のものなので、現在 も同じかどうかはわからない。
 「ハングル語」を採用している大学は、旭川大学札幌大学山形県立保健医療大学、常盤大学、平成国際大学の5校。
 ついでだから、「ハングル語」が書名に入っている本を国会図書館のリストから探すと、6冊見つかった。
『ハングル語入門』金昌根、クライド・ジョーンズ、泰流社、1988
『ハングル語会話集』泰流社編集部 泰流社、1993
『ハングル語単語集』泰流社編集部、泰流社、1994
外国人労働者ハンドブック・ハングル語版』千葉県商工労働部労政課、1995
『ハングル語の部屋』澄川盈男、日本図書刊行会、1996
『イラスト旅会話ハングル語』高野紀子ほか、アップオン、2004
 アマゾンでもほとんど同じだが、アマゾンではなぜか「NHKラジオハングル語講座」のテ キストということで、「ハングル語」の語が使われている。しかし、97年の1冊とか2001年のテキスト3冊だけが「ハングル」でなく、「ハングル語」と しているとは考えられず、アマゾン側の間違いだろう。