タイの音楽界も低調で、「この歌手に注目!」とか、「新発見、この歌手のCDを全部買おう」などという興奮はもうない。買っても損はないとわかっているのは、ターイ・オラタイとタカテーンのふたりだけで、このふたりは日本にいてもYouYubeでたっぷり楽しめる。ターイ・オラタイぐらい有名になると、「tai orathai」と、ローマ字で検索してもいくらでも歌が聴ける。http://www.youtube.com/watch?v=0y0ica28qas
http://www.youtube.com/watch?v=zNqBcsBIzRE&feature=relmfu
http://www.youtube.com/watch?v=Ir59eyejUTM&feature=related
それでも、音楽にきちんとカネ払おうと思い、十数枚のCDとVCD(ビデオCD)を買ってきたのだが、これがお粗末。内容以前の問題が多かった。
2枚組のCDの2枚目は、無音。なにも録音されていなかった。スナリーのCDだぜ(といっても、みなさん御存じないでしょうが、ちゃんとした有名歌手のCDだという意味です。素人が録音した自主製作盤じゃないということ)。ほか、2枚のCDとVCDはケース不良。接合部を割らないと開けられないというものと、接合部があまりに華奢で、あけると割れてバラバラになる。薄型ケースでは、じつはよくある。
それ以上に深刻なのは、VCDをパソコンで再生してみると、映像の揺れ、音飛びが激しく、怒り心頭に発したパソコンが突然動きを停止し、モニターは真っ黒。どうにも操作しようがなく、強制終了。以後、すべてのVCDの受け入れ拒否。いままでは、再生できていたんだがなあ。そこで、DVDプレーヤーに入れてみると、これも受け入れ拒否。デジタルデッキに変わったからだろうか。アナログデッキ時代には何度も再生したのに。
というわけで、タイで買ってきたVCDは再生不可となってしまった。DVDはリージョンが違うので、再生できないし、本当に不便だ。日本のテレビ番組を録画して、タイの友人に送ってやろうとしても、タイはデジタル録画を受け入れないから、日本から送ったDVDは再生できない。
けっきょく、タイの音楽映像を見たければ、タイでDVDを買って、リージョンフリーのDVDプレーヤーで再生するか、YouTubeを見るのがいちばんということらしい。タイ音楽の論文を読んでいて、70〜80年代のタイのグループサウンズ時代のことが書いてあったので、試しにYouTubeで検索してみたら、あの時代の音楽が出てくるんですねえ。グループ名はほとんど英語だから、検索しやすい。シングル盤の写真と音楽というパターンが多いのだが、のちの再結成コンサートの映像もあって、こうなるとアリ地獄ならぬYouTube地獄から抜け出せない。見ていて楽しいのだから、地獄ではなく極楽なのだが、たちまち1時間くらいたってしまう。日本では無名の歌手や音楽ジャンルに興味がある私のような音楽ファンには、絶好のおもちゃなのだ。
シンガポールのアジア書専門サイトを見ていたら、タイ音楽の研究書が出たことがわかったのだが、シンガポールから取り寄せるのも面倒だし、それ以前に内容が分からないのだから、注文するのは心配だと思っているうちに、タイに行ったので紀伊国屋で買った。
“Thai Popular Music” Gerhard Jaiser , White Lotus Press ,2012 ,Thailand
著者はドイツ人のドイツ文学・イギリス文学研究者。やたらに歌手名が多く出てくるので、タイ音楽にかなりの基礎知識がないと読んでも混乱するだろうが、だからといってそのレベルの人を満足させるほどの情報量があるわけではない。音楽的な説明もない。歴史的変遷の説明もほとんどない。全体の半分は歌詞の翻訳なので、それだけが価値か。
冒頭に、「この本は、英語を含めてあらゆる言語で初めて世に出たタイ音楽研究書である」と高らかに宣言しているが、まさか20年近くも前に日本人がタイ音楽の本を書いているとは思ってもいないでしょう。タイなど東南アジア研究に手をつけた者は、「こんなマイナーは分野に興味を持つのは、世界で自分ひとりだろう」と思い込んでしまうものだが、「変人は君ひとりではない」。
ただ、私は自分がマイナーな世界の研究をしているという意識がないので、「研究者は自分ひとり」だとは思っていない。思っていないが、「類似書がでないなあ」とは、いつも思っている。