本を読んでいた
ときどき、日本のテレビなどで、「ルアンプラバン」と表記されることがあるが、それはタイ語式の読み方で、ラオ語ではルアンパバンという。観光化が著しい街だ。
2007年にルアンパバンにいたときに読んでいたのは、この街で買ったばかりの本だった。”Ant Egg Soup” (Natacha Du Pont De Bie , Sceptre , 2004、以下『アリ卵スープ』)だった。15ドルだったから1800円くらいだったということだが、今アマゾンで買えば、送料込みで1000円くらいだ。書名は、タイやラオスで食べられているアリとそのタマゴを浮かべたスープのことで、酸っぱい。著者はパリ生まれで、イギリス在住らしいのだが、詳しいことはなにもわからない。ただし、インターネット上には、彼女の写真も含めて情報件数は多いが情報量は少ない。
http://www.amazon.co.jp/Ant-Egg-Soup-Adventures-Tourist/dp/0340825685/ref=sr_1_1?s=english-books&ie=UTF8&qid=1456209047&sr=1-1&keywords=ant+egg+soup
研究者でもない、ただの旅行者が、ラオスを旅するうちにその食文化に興味を持ち、調べて行くという本だ。日本で数多く出版されている食べ歩き本とはだいぶ違う。食文化探索ルポといった感じの本だ。その本をいま手元に置いて、この文章を書きたいのだが、例によって行方不明になっているので、記憶で書く・・・・。おっと今、第2次捜索隊を派遣したら、20分で発見した。やはり見つけてよかった。忘れていたことが多かった。
「私は料理人ではない。ジャーナリストでもない。ただの腹減らしの夢想家であり、知りたがり屋である」という書き出しは覚えていた。
2000年に初めてラオスに行った著者は、ラオスの食文化を詳しく知りたくなった。イギリスに帰国して資料を探すうちに、本屋ですばらしい本を見つけた。ラオスの宮廷料理人Phaya Singが書いた料理書を翻訳して再構成した”Traditional Recipes of Laos”(以下『ラオスの伝統料理』)だ。編・翻訳・解説は、Alan Davidsonなどが担当している。編著者のアラン・デービッドソンは、食文化研究の世界では著名な研究者だ。元駐ビエンチャン英国大使にして、食文化研究家。
http://www.amazon.co.jp/Traditional-Recipes-Laos-Phaya-Sing/dp/0907325025/ref=sr_1_3?ie=UTF8&qid=1456214184&sr=8-3&keywords=traditional+recipes+of+laos
https://en.wikipedia.org/wiki/Alan_Davidson_(food_writer)
彼女が買った『ラオスの伝統料理』は1995年のペーパーバック第2版のようだが、私はハードカバーの1981年版をバンコクのDK Booksで買っている。発売されてまだあまり時間がたっていない時期で、1バーツが10円以上の時代に、1000バーツ近い値段がついていた。ラオスの料理書など他にない時代だったから、やむなく購入した。
イギリスの本屋でラオスの食文化の本を手にいれたフランス生まれの女性は、その本の版元であるProspect Booksの発行人もアラン・デービッドソン本人だと知って、すぐさまチェルシーの彼の家に会いに行って教示を乞うた。こうして、彼女のラオス食文化の旅が本格的に始まる。
デービッドソンは、2003年にすでに亡くなった。この『アリ卵スープ』が出たのはデービッドソンが亡くなった翌年なので、この本に「アラン・デービッドソンとの思い出に捧げる」という献辞がある。そういう思い出があるから、2007年にルアンパバンにいたときに、Jomaで『アリ卵スープ』を読んでいて、『ラオスの伝統料理』という懐かしい本とその編著者の話が出てきて、夢中で読み進めたというわけだ。
私の財力では途方もなく高いにもかかわらず『ラオスの伝統料理』を買った理由は、細かい点描画付きで食材を解説していたからだ。1980年代は、インドシナでよく使うハーブや調味料の資料はほとんどなかったので、私にはこの本が貴重品に思えたのだ。ラオスでの生活体験もあり、東南アジアの食文化の本や小説の翻訳を手掛けた星野龍夫さんも、この本を持っていた。「あのイラストを描いたのは友人でね」などと言いながら、東京でタイやラオスの食文化の雑談をしたことなどを、このJomaで思いだした。
ラオス滞在中は『アリ卵スープ』を読んでいたが、別の国に行ったらその国の本を読み始めたために、途中で止まったままになっている。臨場読書はそういう欠点もある。