1142話 写真の情報


 私は写真がヘタだ。それがわかっているのに、うまくなろうと努力をしたことがない。どこかで、「うまい写真、撮影技術に優れた写真」を嫌っているところがあるからだ。商品カタログの写真や絵葉書写真や、女性誌の写真は「きれいなだけで、つまらん」と思っているからだ。そういう写真が、「カネになる写真」なのだが、おもしろくない。
 この雑語林で使った写真は、写真学校の先生に言わせれば、「余計なものが入りすぎて、迫力がない。ぐっと近寄って撮るべきだ」というに違いない。

 タンジェのこの写真も、イワシにぐーっと寄って、イワシの頭がはっきり見えるように撮れば、迫力がある。しかし、私は、こういう料理を食べている人たちの世界も同時に写し取りたかった。しかし、こういう態度は、料理写真の世界では異端である。料理写真は美しく、見栄えが良くなければいけないのだ。テーブルにはランチョンマットがわりに紙があり、箱入りティッシュペーパーがあり、ナイフとフォークがあり、タダの水があり・・・というような情報を私は伝えたいのだが、そういうことに興味のある人は少ない。

 この写真だって、被写体に20センチほども近づいて、被写界深度を浅くすれば、迫力のある写真になる。そういうことはわかっているが、私は、料理そのものではなく、「食べ物がある世界」に興味があるのだ。食堂の雰囲気や、その外の風景や路上の人々や、駐車してある自動車など、旅行者である私がいま見ている風景を、食べ物の写真に共存させたいと思っているのだ。食べ物のリアリズムと言ってもいい。テーブルの材質や卓上の調味料も、テーブルのシミやハエもそのまま写し込む。そういう写真を意識的に撮っている。
 料理の写真は、その料理の写真が写っていればそれで充分なのだが、私はフレームの外を見たいのだ。
 「韓国におけるタクワン事情」を知りたくて、韓国の食べログのようなサイトで、料理写真を点検したことがある。韓国では、韓国料理にはキムチなど韓国の漬物がつき、日本料理にはタクワンがつく。韓国の国民食ともいえる黒い和えそばチャジャンミョンは、日本料理ではないのにタクワンがつく。そこまでは知っているが、それ以外の料理ではどうなるのかを知りたくて、ソウルの外国料理店の料理写真を点検し、中心に映っている料理のそばにあるかもしれない黄色い影を探したのだ。多くはその料理以外映っていないが、根気よく料理の周囲を探せば、インド料理店でもメキシコ料理店でもタクワンを出していることがわかった。イタリア料理店ではピクルスがつくことがある。
 食器を見たい。食具を見たい。客層も見たい。食の世界のあらゆる情報を見たいし、撮影者としては情報を伝えたいのだ。こういう情報を1枚の写真に収めようと思うと、24ミリレンズを使うことになり。写真の先生に言わせれば、「ゴタゴタした写真」になるのだが、写真芸術としてすぐれた写真を撮りたいとは思っていないので、これでいいのだと居直っている。

 写真と言えば、この雑語林の前回のスペイン旅行分の写真は消えてしまった。大阪の写真を載せているときに、「これ以上写真を使うなら、すでにある写真を削除するか、来月まで待ってください」という指示がブログ運営会社からあり、ブログ用に保存してある写真を削除したら、ブログに載せた写真も消え、それだけではなく、パソコンに保存しておいた写真も消えてしまったのだ。カードに残した映像をパソコンに移したら、カードの写真を削除したから、前回のスペイン旅行の写真は消えてしまったのだ。復元する方法もあるだろうが、まあいいかと、そのままにしている。過去のブログが、みっともないことになっているのはそういう事件があるからだ。