1542話 本の話 第26回

 

 『ポケット版 台湾グルメ350品! 食べ歩き事典』(光瀬憲子) その6

 

 台湾料理話、まだ続く。

猪油飯(ズーヨウファン、ラードかけご飯)・・・炊き立てのご飯にバターをのせて、醤油をちょっとかけた飯のように、液体のラードを飯に振りかけ、醤油で味をつけたものらしい。そういう料理を紹介しているが、私は知らない。私になじみがあって、大好きなのはほかのページで紹介している油飯(ユーファン)だ。こちらは刻んだ豚バラ肉のおこわだ。台湾のちまきの廉価版といった位置にある。台湾では蒸しているのだろうが、今の炊飯器はもち米でも炊けるので、私は炊飯器を使っている。

 油飯をモチ米ではなくウルチ米で炊くと、沖縄のジューシー、正確にはクファー・ジューシー(硬い雑炊)になる。

肉粽(ロウゾン、肉入りちまき)・・・この料理はいつも台湾語で「バアツァン」と呼ぶ。その名で覚えたからなのだが、外国人がいきなり台湾語で注文するから驚く人が多い。肉を「バー」と発音することを、のちに「ああ、そうか」と気がついた。それは、こういうことだ。小麦粉の汁麺をタイでもインドネシアでも「バミー」という。タイ語をローマ字表記すればbamiiだが、インドネシア語はbakmiと書く。漢字訳すれば、肉麺だ。肉汁をスープにした麺料理だから、「バミー」で、おそらくこの単語は福建語か潮州語など、南中国の言葉だろう。

 東南アジアは中国の食文化の影響を強く受けているから、料理名の謎を探るのに中国語の知識が役に立つが、東南アジアに与えた影響は南中国、例えば広東省福建省といった地域なので、できれば福建語の知識があればなあと思うことが多い。福建省でも地域によって言葉の差があり、料理名が異なる。上に書いた「肉は,baかbak」と覚えても、フィリピンではbaboyのほか、「ma」も使う。フィリピンの麺料理maki miは漢字では 肉羹麵と書き、福建語でマキ・ミーと発音する。

 マレーシアに行けば、福建語表記の料理図鑑が見つかるかもしれないが、よそ者には読めない。こういう食文化の言語学に興味がある人にお勧めしたいのが、ペナンで買った次の本。マレー語に入った中国語辞典だ。

“a baba malay dictionary”

 この辞書を見ると、「bak[猪肉]pork,;meat」とある。「猪肉」は、ブタ肉のことだ。麺はマレー語ではmee、インドネシア語ではmi。

壽司巻(ソウスージェン、太巻き)・・・台湾ののりまきの写真を見ていて、韓国ののり巻き(キムパップ)を思い出し、このコラムでちょっと前に書いたカレーライスの話と同じように、日本時代のなごりだ。私が子供のころは回転ずしなどなかったので、子供が口にするすしは、母が作るお稲荷さんかのり巻き(太巻き)だった。地域によっては、あるいは家庭によっては、押しずしやちらしずしを家庭で作っても、握りずしや細巻きなどは来客用の特別な食べ物だった。戦後まで続いたそういう太巻きすしが、台湾や韓国に残っている。

 ただし、次の記述が気になった。「気温が高いせいか、台湾の酢飯は日本よりも酢が効いている。コンビニのおにぎりにも酢が入っていることがあるので、ひと口食べて驚くことも」

 韓国ののり巻き(キムパップ)は酢飯ではないし、タイのすしもタイ人向けの安いものは酢を使っていない。すっぱいご飯は「腐っている」というイメージがあるかららしい。それなのに、台湾のすしは酢が効いているという理屈がよくわからない。台南の安食堂ですしを食べたことがあるが、「酢が効いている」とは感じなかったが、台湾のすしの全貌は私にはわからない。