1366話 音楽映画の話を、ちょっとしようか 第10回(最終回)

 狸御殿は知っています?

 

 どうやら、私は音楽映画や音楽ドキュメントが好きらしい。ドキュメントでは、NHKテレビで放送していた「Amazing Voice 驚異の歌声」(2011)シリーズはすばらしい番組だった。もちろん、全部録画した。同じNHKでは、「我が心の旅」にも、音楽がらみの番組があった。

 テレビのドキュメントではないが、今、思い出したのは映画「カラー・パープル」(1985)だ。音楽映画ではないが、音楽担当のクインシー・ジョーンズがさまざまな黒人音楽を聞かせてくれた。もう30年以上前の映画だから、詳しい内容は覚えていないのだが、ネットで調べてみると、やはりブルースとゴスペルのシーンは覚えていた。

 日本映画で、音楽映画と呼べる作品は・・・と考えても、すぐには浮かばない。考えれば「嵐を呼ぶ男」などいくつかは思いつくが、「まあ、たいしたことはないな」と思いつつ、あっ、音楽映画が宝の山だった時代があったことを思い出した。歌謡映画の時代だ。「歌謡映画」という看板を掲げなくても、かつての日本には登場人物が当然歌い出すというミュージカルのような映画はいくらでもあった。「蘇州夜曲」などが歌われた「支那の夜」(1940)など戦前からあったが、戦後はもっと増えた。

 代表的なのは、狸御殿だ。1939年から2005年までに8作つくられたオペレッタだ。そのリストと映像の一部を紹介しておこう。私は1960代か70年代にテレビで見て、そのエンターテインメント性にびっくりした。こういうおもしろい映像は、タモリが出ていたテレビ番組「今夜は最高!」(日本テレビ。1980年代に放送。美空ひばりも出演)に引き継がれたが、今は途絶えた。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8B%B8%E5%BE%A1%E6%AE%BF

 映像は、これ。昔は芸達者がいくらでもいたことがよくわかる。

https://www.youtube.com/watch?v=Jw0HNJIrNNk

https://www.youtube.com/watch?v=O2vlhvc8OTM

 「今夜は最高!」のことを考えていたら、「ジャズ大名」が浮かんだが、それほどおもしろくはなかった。「キャバレー」(1986)はダメ。「のだめカンタービレ」はテレビ版も映画版も見ているが、クラシック音楽を広めたという意味では重要な映画だったと思う。ドラマそのものも、気に入っている。クラシック音楽を使った音楽映画は「アマデウス」などあまたあるが、私の好みではないので、ほとんど見ていない。

 ベンチャーズの時代を描いた「青春デンデケデケデケ」(1992)もよかったが、今の若者にはわかるかな。ギターがうまい高校生を演じていた浅野忠信を、公開当時私はまだ知らなかった。

 オペレッタを除いて、私が見た数少ない日本の音楽映画のなかで、「これがベストかな」と思うのは、「スウィングガールズ」(2004)。これがいい。役者が練習して、実際に演奏できるようになって、コンサートを行った映像はいくつかあるが、これもそのひとつ。

https://www.youtube.com/watch?v=_9ikyU-zqOs

 そういえば、「のだめカンタービレ」のように、「音楽映画と学校」という映画ジャンルもあるような気がする。「スウィングガールズ」の翌年に公開されたのが「リンダ リンダ リンダ」(2005)。アメリカには、「ミュージック・オブ・ハート」(1999)があり、何の予備知識もなくテレビでこの映画を見ていて、イツァーク・パルマンが登場して感激。今、この映画について調べていて、教師役でグロリア・エステファンが出ていたことをすっかり忘れているのに気がついた。ロック版なら、「スクール・オブ・ロック」(2003)がある。音楽に親しめば、ハッピーエンドという映画の構成はみな似たりよったり。学校ではないが、教会が舞台の「天使にラブソングを」がある。一応見たが、ゴスペルがあまり好きではないので、強い印象は残っていない。

 私の評価に異論のある人も多いとは思うが、映画も音楽も、人それぞれに好みや評価があるから、ここで紹介した音楽映画は当然、私の個人的評価によるものだ。映画と音楽といえば、インド映画に触れないわけにはいかないが、「ミュージカルが嫌い」という理由で一切触れない。

 音楽評論家の松村洋さんは、「ジョアン・ジルベルトを探して」(2018)がいいですよという話をしたが、私はまだ見ていないので、ただ話を聞くだけだった。その後の雑談は、「with stringsについて」とか「こぶしを考える」など内容は多岐にわたり、いつも通り楽しかった。専門的な話でもあるので、ここでは書かない。音楽の話は、べつのテーマで、また書いてみよう。

 あっ、今、ジョニー・キャッシュの伝記映画「アイ・ウォーク・ザ・ライン」を思い出した。「あんまりおもしろくないカントリー歌手」というイメージしかなかったジョニー・キャッシュだが、とんでもない人生を歩んだと知って驚いた。その意外性に1票。とまあ、音楽映画はいくらでも思い出してきてきりがない。クレージーキャッツトニー谷や、「シェルブールの雨傘」は、「イージー・ライダー」は・・・と、ここで触れなかった映画がいくらでも思い浮かぶが、キリがないので、これにて本当に打ち止めにする。