1666話 「旅行人編集長のーと」に触発されて、若者の旅行史を少し その14

地方在住者および県庁所在地から遠く離れた土地に住んでいる(気の毒な)人たち 3

 

 「ビザは隣国で取れ」というのは原則だが、仲が悪い国同士だと簡単にはいかない。ケニアタンザニアのビザはなかなか取れなかった。ケニアタンザニアの関係史をきちんと話すと長くなるので、ここでは簡単に「両国は仲が悪かった」とだけ言っておこう。国境を閉じているわけではないが、ケニアからタンザニアに行くルートは、1982年当時次のようなものだった。

  • どこかでタンザニアのビザを取り、飛行機で入国する。1982年当時、ナイロビ・ダルエスサラム便があったかどうかは知らない。
  • 陸路の場合は、ケニアからウガンダ→ルワンジ→ブルンジタンザニアというルートなら、ルワンジかブルンジタンザニアのビザが簡単に取れるという情報を得ていたが、どれだけ正確かわからない。ブルンジまで来て、「入国不可」だと引き返すのがえらく面倒になる。
  • ケニアタンザニア大使館はないから、ケニア当局に問い合わせたら、こうしろと言われた。まず、タンザニアの警察に入国許可申請をする。許可が出たら、ケニア警察に行き、ケニアの出国許可をもらう。その書類のコピーをタンザニア法務省だったか外務省だったかに送ると、「幸運なら、もしかしてビザを送られてくるかもしれない」というもので、翻訳すれば「不可能」という意味だろう。
  • そこで、私はケニアの小島ラムから帆船に乗って、タンザニアのダルエスサラムに不法入国(ビザなし入国)したというわけだ。刑務所行きか、ワイロをたっぷりせがまれるかと覚悟したが、警官かイミグレーション職員かが、私の扱いがどうにも面倒になったようで、パスポートに「ひと月滞在可」のスタンプを押して、事務所から解放された。所要30分、出費ゼロ。

 さて、話を戻す。日本でビザを取る話だ。

 地方在住者は東京など大使館がある都市に行かなければならない。東京に大使館があるだけで他の都市に公使館も領事部もない国なら、大阪在住者でも上京しないといけない。すぐにその場で取れるということはほとんどないから、最低1泊2日が必要だ。ビザは午前申請、午後受け取りだと、前夜東京に泊まっている必要があり、飛行機が朝の便なら、もう1泊しないといけない。日本を出るまでにけっこうな交通費や滞在費を使ってしまう。数か国のビザを取るなら、うんざりするはずだ。

 ビザ申請は観光ビザ程度なら、本人が大使館に行かずに、旅行代理店に申請を依頼することもできる。1970年代の旅行代理店手数料はわからないが、2021年のJTB手数料を調べてみれば、インドのビザは1万6500円。ケニアは1万1000円、ネパールは1万2100円だ。しかし、同じJTBこの資料では、インドの観光ビザ取得にかかる代行手数料は2万7500円になっている。たぶん、これがビザ代金を含んだ料金なのだろうが、詳細はわからない。この料金でも、東京までの1泊2日の交通費や滞在費を考えれば安いという人もいるだろう。首都圏在住者でも、仕事を2日休まなければいけないという人には、旅行社を使ったほうがいいだろう。もちろん、到着の空港でビザを取るという現在の情報は、ここでは考慮していない。

 出発が早朝だと前夜ホテル泊だろう。帰国便が午後到着だと、当日の帰宅はもう無理という人も少なからずいるだろう。羽田から地方空港に飛ぶとなると、出費が痛い。インターネットで成田発の安い航空券が手に入ることはわかっていても、成田まで行かないといけないなら、関空や福岡から飛ぶかという選択をすることもあるだろう。北海道の自宅に帰るなんて大変だが、自宅が札幌から遠いとまた大変だ。沖縄の石垣島に帰るなら、那覇からまた大金がかかる。自宅と国際空港を結ぶ移動費を考えたら、国際線航空運賃よりも国内線の方が高かったというのは、珍しい例ではないだろう。

 地方在住者には、外国に行く以前に、航空機の日本発着時刻の問題がある。首都圏在住者でも、どこに住んでいるかによって、早朝出発便や深夜到着便を利用するなら、成田や羽田に行くまでが大変だろうなあという話だ。ごく短期の旅なら、自動車で空港に行き、駐車場に置きっぱなしにするという方法もある。誰かに車で送り迎えをしてもらうという方法もあるが、公共交通機関を使うという事なら、利用できる便は限られる。

 私は東京在住者ではないが、千葉在住者だから成田も羽田も電車で簡単に行くことができる。それでも電車利用だと、「羽田22時30分到着便」は使えない。安くヨーロッパに行く便があり、乗り換えも便利なのだが、羽田のベンチで夜を明かすのはいやで使っていない。羽田で1泊するか、深夜のタクシー料金を払う気なら、少々高い航空券を買った方がいい。