1395話 「応答せよ」と韓国現代史 その13

 青春の光と影

 

 私の勝手な想像だから、根拠など何もないのだが、ドラマ「応答せよ 1988」はシン・ヘチュルと重ね合わせて発想したのではないかという気がする。

 かつて、韓国にMBC大学歌謡祭というものがあった。1977年に始まり、2012年に終了した。第1回となる1977年に出場したのが、キム・チャンワンのサヌルリムだという話は前回した。この音楽祭の全盛期は1980年代で、ドラマ「応答せよ 1988」はその全盛期の高校生の音楽生活が中心となる。このドラマのオープニングに毎回登場するのが、1988年の大学歌謡祭のシーンだ。大賞をとったムハンケド(無限軌道)いうバンドの「君に」が流れる。ワイシャツ姿で歌っているのが、1968年生まれの大学生シン・ヘチョルだ。

 1988年 大学歌謡祭優勝。無限軌道「君に」

https://www.youtube.com/watch?v=SVxiqGiLMCM

 日本語訳詞はこれ。

https://ameblo.jp/junjoetaguchi/entry-10835004444.html

 無限軌道は、音楽祭で優勝した1988年に音楽界デビューし、1990年まで活動した。次に結成したバンドN.EX.Tは1992~1997年と2002年~2014年までの活動。ロック、ヒップホップ、ジャズ、韓国伝統音楽の国楽、クラシックなどいろいろ手を出したそうで、韓国では「魔王」とか「教主」と呼ばれていたらしい。DJもやり、討論会の論客でもある。テレビ討論の動画を見たら、頭の両側を刈り上げ、龍の彫り物が入っていた。カリスマ的存在だ。

 いくつかの動画で彼の音楽を見て聞いたが、そのすごさが私にはわからない。

 一応、ジャズと称するコンサートとオペラと称する動画を紹介しておこう。

https://www.youtube.com/watch?v=jYXrZdw0ecg

https://www.youtube.com/watch?v=NLNnv1Nk7Mw

 変化がよくわかる動画がこれ。

https://www.youtube.com/watch?v=U0wHgAPvMY8

 突然の報道だった。2014年10月22日、腸の手術中、容態が急変して27日に死亡。46歳の生涯だった。執刀医の手術ミスが原因とされ、医師に実刑1年の判決が出た。彼の死亡記事は、日本語でも多く報じられている。

 葬儀の模様。

https://www.youtube.com/watch?v=0aeK0sxqwOE

 「応答せよ 1988」の放送が始まったのは、2015年11月から翌16年の1月だった。ドラマの制作者も視聴者も、1988年に華々しく登場し2014年に急死したシン・ヘチョルの生涯が頭にあっただろうというのが、私の想像だ。ドラマは毎回、1988年のシン・ヘチョルの歌声から始まるという構成は、放送開始の1年前に突然死亡した音楽家を意識したに違いない。 

 

 ドラマでは、1988年のテクはパク・ボゴムが演じた。このドラマで、ボゴムは一気に人気者になった。2016年のテク役は、1972年生まれのキム・ジュヒョクが演じた。映画「コンフィデンシャル/共助」(2016)ではまったく違う雰囲気だった。2017年10月30日、ソウルで交通事故により死亡。45歳だった。警察の発表では、彼が運転していた車が衝突事故を起こし、そのあとマンションの壁に激突したという。解剖の結果、心臓に異常はなく、薬物反応もなく、激突の原因は不明のままだ。

 1988年のドクソンは、「ガールズ・デイ」のメンバー、ヘリ(Hyeri)だった。すばらしい演技だったので、引き続き、彼女が主演のドラマ「タンタラ」(2016)を見た。2016年のドクソン役は1970年生まれのチョン・ミソンが演じた。私の知らない俳優だが、このドラマでは浅田真央に似ているな、などと思いながら、ネットで経歴を検索した。ドラマ「雲が描く月明かり」(2016年8~10月まで放送)では23代国王の側室役で、パク・ボゴムと共演している。さらに調べると、2019年6月29日全州(チョンジュ)のホテルで死んでいるのをマネージャーが発見したという記事を見つけた。遺書はないが、うつ病の治療を受けていたので、自殺したのだろうというのが警察の見方だ。

 1988年の青春は、こうして終わっていった。

 「応答せよ 1988」と韓国現代史の話は、今回で終わる。