1652話 深夜放送 その3

 

 城達也の引退後、次の機長による放送を聞いた記憶がない。伊武雅刀の声は覚えているが、連続しては聞いていないだろう。ときどき聞くようになったときには、大沢たかおが機長になっていた。2010年代だ。かつては、放送する音楽は気に入らないが、城のナレーションが絶品だったのだが、この時代になると、音楽はなかなかいいのに、大沢の大根役者ナレーションが「耳につかえた」。虫の居所が悪いと、CDかユーチューブに切り替えた。

 「ああ、機長が変わらないかなあ」と念じていたら、「代る」という幸運の知らせがあって、新機長の放送を聞いてみると、大沢よりもさらに大根で臭いせりふ回しの福山雅治だった。喜んだのはファンだけだろう。松村邦洋の物まねよりもまだ臭いナレーションには、まいる。私の想像にすぎないが、福山のあのしゃべり方は、NHKの深夜番組「クロスオーバーイレブン」(1978~2001)の津嘉山正種のナレーションに似ているが、もちろん訓練された俳優のせりふ回しとは比べ物にならない。

 そこで、考えた。次はだれがいいか。外国の事柄をナレーションで流すという構成のままなら、池松壮亮風間俊介はどうだろうかと考えていて、ふと「なぜ、男を考えているのか、女じゃいけないのか」という疑問が沸き起こり、客室乗務員でも機長でもいいじゃないか。実際に女性機長が日本にいなくても、放送ではいいじゃないかと思いながら調べれば、現実に女性機長がいた。しかも、過去のジェット・ストリームの三代目の案内役は、女性だった。番組名が「LOVE SOUNDS ON JET STREAM」とかわり、機長ではなく「キャビンアテンダント」としてフリーアナウンサー森田真奈美が担当していた(豊田真奈美か? まさかと勘違いした自分を笑った)。2年間しか続かなかったそうだが、この時代に番組を聞いた記憶はない。

 話がちょっと横道にそれるが、1990年代あたりから、それまでの「スチュワーデス」「スチュワード」といった呼称が性差別にあたるという考えから、航空各社が客室乗務員に対していろいろな呼称を考え、日本航空は「フライトアテンダント」という呼称に決めたが定着せず、「キャビンアテンダント」(CA)となったのと、ジェットストリームにCAが登場したのと時期が一致する。雑談をもうひとつ。LOVE SOUNDという語はネットで検索しても出てこないが、私の記憶ではフランク・プールセルやポール・モーリアなどの音楽を売り出すために作られた呼称で、命名者はプロモーターのキョードー東京だったと思う。こういう営業活動にはレコード会社もからんでいるだろう。ムードミュージックを「ラブサウンド」と言い換えようとしたようだが、定着しなかった。

 さて、話を戻して、魅力的な女性案内人の候補者の話だ。

 「いい声」ジャンルですぐに思い浮かんだのは、秀島史香(ひでしま・ふみか)だ。J-WAVEピストン西沢とやっていたGROVE LINE(2000~2010)ではフリートークで硬軟合わせて見事な腕前を発揮したが、それ以後テレビで彼女の声を聴くと、「おしゃれな声担当」のナレーションになっていて、少々残念だ。近藤サト系列を目指しているのか。

 ナレーションは聞いたことはないが、「もしかして、いいかも」と感じたのは石橋静河伊藤沙莉(いとうさいり)も、いい。NHKのベテラン女性アナウンサーの低い声も魅力だ。原田知世は声に特徴はないが、雰囲気はあるかもしれない。

 こうやって、「あの人はどうだ?」などといろいろな人の声を思い出して選考しているのはなかなかに楽しい。ナレーターが、1年か2年で交代するというのも悪くないなどと、ヒマに任せて夢想している。