173話 タイにピラニア出現?


 東南アジアの魚を紹介した文章に、突然「ピラニア」が登場することがあった。これは、どう考えたってテラピアの勘違いだと思っていたが、「あれれ」というのがきょうの話題だ。
 タイ在住の友人、酒井さんからメールが来た。近所の市場でピラニアを買ったというのだ。値段は、キロあたり25バーツというから、安い。その魚の名前 は、市場の売り手は「プラー・チャラメット・ナーム・チュート」だといった。直訳すれば「淡水マナガツオ」で、扁平な魚ではあるが、素人が見たってマナガ ツオではないことはすぐわかる。酒井家の近所の人は、「ペーフーと言うんだよ」と教えてくれたそうだ。
 世の中便利になったもので、その魚の画像も送られてきたので、調べてみたくなった。しかし、魚に疎い私には、かなり手ごわい調査だ。
 『タイ日大辞典』(冨田竹二郎編、日本タイクラブ発行、めこん発売)のページを開いてみたが、新参者の俗称だから、載っていない。予想どおり、名前からの調査はできない。
 手持ちの魚類図鑑といえば、『東南アジア市場図鑑 魚貝篇』(河野博、弘文堂)だ。この本の編集に関わった記憶では、酒井さんが送ってきた魚の姿に見覚えはない。それでもすべての写真を調べたが、見つからなかった。
 『原色魚類検索図鑑』(阿部宗明、北隆館)にもなく、タイで買った各種魚類図鑑にもなく、インターネットに頼ることにした。
 「まさか、ほんとにピラニアじゃないよなあ」と思いつつ、「WEB魚図鑑」で調べてみると、「レッド・ピラニア」という魚の写真が、酒井さんが市場で買った魚に似ている。
 レッド・ピラニア  カラシンカラシン科 Serrasalmus nattereri
 しかし、本当にピラニアをバンコクの市場で売っているのだろうかという疑問が頭を離れず、再度調べてみた。すると、ピラニアに似た魚が見つかった。
 タンバキ  カラシンカラシン科  Colossoma macropomum
 説明にはこうある。「見た感じは、同じカラシン科のピラニアにそっくりだが、口は小さく、性質もおとなしい。貧栄養の水でも平気で、病気にも強く、養殖されることが多い。水産重要魚類である」
 インターネット情報では、タイで養殖されているという情報はつかめなかった。サバのように、海外から輸入しているのでなければ、タイ国内で養殖している のだろう。ということは、今後はテラピアに加えて、ピラニアに似た魚もいて、話がややこしくなってきた。それにしても、タイの市場にアマゾンの魚が並ぶ時 代になったのですねえ。
 それはそうと、養殖を調べるには、「タイ」という国名は、まことにややこしく、めんどうだ。これがマレーシアだったら、検索は楽なのになあと、いつも思う。タイ国関連の事項を検索すると、いつも魚のタイがひっかかってしまう。
 こういう原稿を書いて、「WEB魚図鑑」に載っていたレッド・ピラニアとタンバキの写真をタイに送った。すると、意外な返事が返ってきた。
 「私が日本に送った写真は、料理をするためにウロコを取ったあとのものです。バンコクの市場で売っている姿で比較すると、タンバキよりもレッド・ピラニアに近い。やっぱり、タイでピラニアを売っていたんだ」
 というわけで、酒井さんの判断では、レッド・ピラニアにより近いそうだ。詳しい事情をご存知の方は、アジア文庫までご教授ください。