1036話 日本の常識は、「外国はアメリカとフランスと・・・」


 テレビのスイッチを入れたら、「なぜ日本人は器を手にもって食事をするのか?」というテーマが取り上げられていた。新聞のテレビ番組表を見たら、「この差って何ですか?」(TBS)という番組だ。
 人の食事の仕方というテーマは興味のあることで、長年考えてきていることなので、チャンネルをそのままにして、しばらく見ていた。
 番組内容は以下の番組HPに出ているが、要約するとこうなる。解説役は斗鬼 正一(とき・まさがず)という文化人類学民俗学江戸川大学教授だそうだ。ウィキペディアによれば、マスコミで大活躍の学者らしい。
 この教授の説明によれば、日本人は膳で食事をしていたから、食器から口なでの距離が遠いから、器を持ち上げて食事をしたのだが、外国では昔からテーブルで食事をしていたので、器と口の距離が短い。だから、器を持ち上げる必要がない。そういう説明だ。
 http://www.tbs.co.jp/konosa/archive/20170829.html
 外国とはアメリカであり、フランスであり、それに加えるならイギリスとイタリアあたりの地域であり、外国人とは、そういう地域に住む西洋人たちであるというのは、日本のマスコミの常識であり、日本人の常識でありバラエティー番組で稼ぐ学者の常識でもある。
 人の食事の仕方には、食具や食べ物の形状なども関係するのだが、そういう話は、改めて別の機会にする。ここでは、多くの著作があるこの大学教授が考える「外国」には、朝鮮もインドもトルコも、アフリカも入っていないことを問題にしたい。インドに、歴史的に膳はあるのか、テーブルはあるのか。古くから食卓がある中国でも、飯碗を手にもって食べているのだがなあ、などと考えたことがないらしい。そういう学者が、大学で文化人類学を教えている。マスコミで稼いでいる。それが日本の現実なのだ。
 「日本と外国を比較すれば」といったことをテーマにしたテレビ番組は多い。NHKBS1の「cool japan 発掘! かっこいいニッポン」でも、出演者の圧倒的多数は西洋人だ。
 アジアを旅してきて良かったと思うこと、アジアの本を読んできて良かったと思うのは、こうした日本のマスコミのインチキ解説に、「違うよ、それは」と異議をはさめることだ。アメリカのことを少し知っていて、「そういうアメリカと違う日本は劣っている」という論調が詰まっている千葉敦子の本『ちょっとおかしいぞ日本人』に関しては、このアジア雑語林の21話に書いている。
 http://www.ryokojin.co.jp/6f/maekawa/zatugorin21_30.html
 バラエティー番組の危険な点も書いておこう。
 外国を取り上げたバラエティー番組の大問題は、外国人がしゃべっている声にかぶせて日本語の「吹き替え」をつけている構成だ。昔は、外国語の声も聞こえる吹き替えだったが、最近はほぼ完全に日本語になっていることが多い。報道番組では原語の音が聞こえるように調整されているが、バラエティーではほぼ日本語だけで、原語は聞き取れないようになっている。つまり、外国人が本当に何と言っているのかわからないようになっているのだ。今の日本では、世界のさまざまな言葉がわかる人が住んでいるから、吹き替えの日本語が原語とは全く関係ないデタラメでも証拠が残らないような作業をしているのだと、私は想像している。