1046話 イタリアの散歩者 第2話

 これがイタリアか その1 恐ろしき朝食

 パレルモに着いて数日のうちに、「イタリアとはこういう国か!」という印象があり、たった数日でわかるわけはないというのは正論だが、そのあとの旅で、やはり第一印象は正しかったという結論に達した。
 そのひとつが、朝食だ。ツアーでイタリアに行った人は、ホテルでブッフェ式の朝食を食べているだろうから、イタリア式朝食がどんなものかわからなかったかもしれないが、B&B(Bed &Breakfast、いわゆる民宿のような宿泊施設。イタリアでもこの名を使う)のように、イタリア人の生活に近い環境で朝飯を食べると、その恐ろしさがよくわかる。
 私がパレルモで食べることになった朝飯は、こういうものだった。
 甘いクロワッサンか、甘いクロワッサンにクリームが入ったもの。ドーナッツ、クッキー、たっぷりの手作りジャムを包んだクレープ(当然、粉砂糖がまぶしてある)、各種チョコレート食べ放題。飲み物は、エスプレッソ。量は極端に少なく、せいぜいぐい吞み一杯分、ヤクルト半分くらいか。この宿では、そこに小粒のチョコレートと砂糖がたっぷり入っている。すべてが、たっぷり甘いのである。
 パレルモに研修を受けに来たという宿泊客といっしょに食事をしつつ、イタリアの朝食について話を聞いてみた。
 イタリアでは、北部でも南部でも、朝食はこんなもの。「何か甘い物とコーヒー」が基本だと言いながら、彼女はテーブルのパウンドケーキを手に取った。市販の袋入りのものだ。彼女はカプチーノを飲んでいるが、家庭ではカフェラッテが多くなる。温めたミルクにごく少量のコーヒーをいれたものだ。その家庭にあるコーヒー機器によって、カプチーノカフェラッテかの違いが出る。ミルクを加熱しつつ泡立てる機能がないと、カプチーノは家庭では飲めない。
 「早朝から肉体労働をする人のなかには、朝からハムとかチーズとか大量のパンを食べる人もいることはいますが、多くは、都会でも農村でも、イタリアの朝ごはんはこういうものです」
 農村では、甘い菓子類を買ってくるということはなかなかできないから、パンに大量のジャムをつけて食べるのだろう。
 イタリアの宿は、日本の旅館のように、朝飯付きというところが多い。おかげで、宿が用意した朝飯を食べる機会が多かった。チョコレート入りのエスプレッソというのは、私が泊まったパレルモの宿だけで、あれは特別サービスのようだ。朝食の飲み物は、名前が何であれ、コーヒー入りミルクが多数派で、食べ物は「甘い物なら、なんでも」というのがイタリアの常識らしいとわかった。
 イタリアの朝飯を前にして、朝も腹いっぱい米の飯を食いたい中国、韓国、日本など東アジアのおっちゃんたちの、苦渋に満ちた顔が浮かんだ。私は午前中に米粒を口にすることはないのだが、朝から甘い物を大量に食べる習慣もない。日本にいれば、マグカップ一杯のネスカフェと小さなトーストとサラダにバナナ(ヨーグルト付き)という構成の朝食で、これは一年中変わらない。できることなら、旅先でもこういう朝食を口にしたいが、まあ、その地の流れに身を任せるのも旅の楽しみではある。
 こういうイタリア式朝食を喜ぶのは、イタリア人以外では、ポルトガル、スペインくらいだろう。スペインにも甘い朝食はあるが、パン・コン・トマテ(トマトをのせたパン)のように、甘くない朝食もある。だから、スペイン旅行で朝食を苦痛に感じたことはなかったのだ。   
 イタリアでも、外国人が多いホテルなら、トーストを用意している。だから、ツアーでの旅行だと、イタリア朝食の恐ろしさはわからない。ローマの繁華街を歩くと、”International Breakfast”という看板を掲げた店を見かける。ドイツ人だってアメリカ人だってイギリス人だって、イタリア式極甘朝飯はいやなのだ。


 シチリアの明るい朝の食事。その内容は・・・


 手製ジャムがたっぷり入ったクレープに、甘いクロワッサン。ジャムもハチミツも使い放題。カップは大きいが、大甘のコーヒーが少量。


 シチリアの別の宿の屋上のダイニングルーム。やはり、甘いパン。