今年初めて上京し、神保町をうろついた。連休中にわざわざ出かけたのは三省堂神保町店が「老朽化」のため建て替えることになり、最後の営業が5月8日だと知ったからだ。あの店舗に深い思いはないが、新店舗が完成するまで生きているかどうかわからないので、40年間しばしば足を運んだ三省堂に、この機会だから行っておこうかと思ったのである。
神保町を歩き始めた1960年代なかばからしばらく、神保町で気軽に使えるトイレは三省堂だけだった。まだ東京堂も書泉グランデも書泉ブックマートもなかった。パチンコ屋のトイレは使えたかもしれないが、私は中学生から高校生の時代だ。少しでも多くの本を買いたいのだから、トイレのために喫茶店に入る気はなかった。考えてみれば、あの時代は明治大学や中央大学に自由に出入りできたから、トイレを利用できたのだろうが、そんなことは思いもしなかった。
三省堂が「老朽」を理由に建て替えという情報を知って、いつもの理由にうんざりしている。日本の建築技術はたった40年で朽ちてしまうのか。エンパイヤステートビルは90年以上建っている。ヨーロッパには18世紀から建っているアパートもある。日本のビルは伊勢神宮のように、すぐに破壊と新築の工事を始める。「老朽化」というのが実は「もっと稼ぐための新築」だということはわかっているが、施主も建築業者も、1度建てたビルを壊してしまうことに後ろめたさや寂しさは感じないんだろうな。業者は、スクラップ&ビルドで稼げるからいいのだ。
さて、久しぶりの三省堂。旅行書コーナーに、かの山口文憲師の『香港・旅の雑学ノート』が復刊されて、平積みになっている。内容は、昔のままで手を加えてないと「あとがき」にある。ページ下の空白部分に、「その後に」というコラムがあれば買ったかもしれないが、そのままだと買う気はない。版元の河出書房新社に山口ファンの編集者がいたという幸運なのだろうか。帰宅後調べてみれば、初版のダイヤモンド社版(もちろん、持っている)はアマゾンで1万4932円もしているから復刊を決めたのかと思ったが、新潮文庫版は40円から出品されているので、もとのダイヤモンド社版の四角い造本なら「売れる」と踏んだのだろうか。
ネット情報で知っていた『地球の歩き方 世界のカレー図鑑』を点検。文字通り「図鑑」として使うにはいいだろうが、事典的情報がもっとあれば買ったんですがね。「今、急いで買うこともないか」という本。執筆者のひとりは、かの前原利行さん。同『世界の中華料理図鑑』と『世界の地元メシ図鑑』は発売前だ。多分、いずれ買うことになるでしょう。
4階にあがって、各階をチェックしながら下に降りていった。欲しい本は少ない。アマゾンの「ほしい物リスト」に入れているが、内容をよく知らない本の現物があったので、内容を点検し、「買う必要ナシ」と判断。
1980年代を特集した小さなコーナーがあって、いわゆる「懐かし本」が集められていたが、欲しい本が2冊あった。
『東京DEEPタイムスリップ1984⇔2022 : Tokyo Deep Time Slip 1984⇔2022』(善本喜一郎、河出書房新社、2022)と『東京タイムスリップ1984⇔2021: Tokyo Time Slip 1984⇔2021』(善本喜一郎、河出書房新社、2022)の2冊。
1980年代のあの東京が、今どうなったかという本で、かつての写真と同じ場所で同じアングルでふたたび撮影している。新宿南口の写真は特に「ああ、そうだったよなあ」という「暗黒の怖い新宿」だ。欲しいが買わなかったのは、100ページちょっとの写真集だから、15分もあれば読み終えてしまう。「通い詰めたディスコが映っている」などといった思い出深い風景はあまりないから、見るのは楽しいが、買うほどじゃない。素晴らしい本ではあるんですがね。
いつもと同じように、「買いたくなる本は、東京堂書店だな」ということになり、三省堂を出た。
*5月14日午前0時20分のタモリ倶楽部は、旅行ガイドブックが出せない時代の「地球の歩き方」を特集。