879話 イベリア紀行 2016・秋 第4回


 イタリア北部案急浮上


 申し訳ないが、旅行先を決めるグダグダ話に、もう少しおつきあいいただきたい。どこに行こうかとあれこれ調べ、考えている時間が好きなので、こういう話が長くなるわけで・・・。
 アジアをやめたら、ヨーロッパか。イタリアはどうか。
 イタリアに行ったのは、1983年だった。ギリシャから船でイタリアに行った。北イタリアはまったく知らない。ミラノ、ベネチアトリノボローニャ、どこも知らない。よーし、北イタリアに決まった。旅行地選びは最終段階に入った。
 イタリアの本はほとんど読んだことがないから、アマゾンで次々と注文した。小説と学術書と旅行ガイドは、とりあえずは買わない。アマゾンで数百冊のイタリア関連本をチェックした。この国の情報に暗いので、そのなかからとりあえず安い本を次々と買って、北イタリアの雰囲気を頭に入れようという作戦である。
 毎日のように自宅に届くイタリアに関するエッセイ本を読んでわかったのは、日本ではイタリアは女の世界だということだ。女が本を書きたくなるのはフランス、それもパリだけだと思っていたが、いやいやイタリアですな。おもな書き手の名を列挙してみる。

 塩野七生須賀敦子、内田洋子、田島麻美、田丸公美子、松本葉、平澤まりこ、ヤマザキマリ、貝谷郁子、杉本あり、田中千世子、タカコ・半沢・メロジー、島村菜津・・・。

 男も書いているが、圧倒的に女の世界だ。食べ物の話なら、フランスよりも手をつけやすいということはあるだろうが、それにしても、だ。上にあげたエッセイ以外にも、歴史書やイタリア語入門といった本も買って読み、スペイン語とは文法がだいぶ違うんじゃないかなどと思った。いろいろ調べてみても、北イタリアはどうも、いま一歩面白みに欠ける。心がうきうきしてこないのだ。ベネチアはたしかに異彩を放つ街なのだが、どうしてもテーマパークにいるような気がするに違いない。北イタリアは少々退屈そうだから、シチリアも巡る旅にしよう。航空券はミラノinで、ローマoutにしようか。半島からシチリア島への渡り方をリストにして検討してみたのだが、「よーし、行くぞ!」という気分にはなかなかなれない。自動車で言えば、スパークプラグの調子が悪いのだ。旅行エンジンがかからない。起爆剤がないのだ。
 企画をちょっと変えよう。そう思った。
 ミラノからプラハチェコ)に行き、しばらく滞在するというのはどうだ。航空運賃を調べたら、往復で6200円だ。当然LCCだが、東京・小田原の新幹線往復料金よりもずっと安い。
 イタリア行きをやめて、チェコにしようかと思ったが、東京・プラハの航空運賃は高いし、詳しくは調べなかったがたぶん乗換えが不便だろう。
プラハよりもミラノに近いブダペストハンガリー)だと、ミラノから往復でいくらだろうかと調べてみれば、5000円ちょっとだ。これはもう、航空運賃とは思えない。深夜バスの片道料金に思えてくる。ちなみに、上野・成田空港間のスカイライナー往復運賃は約5000円だ。
 北イタリア旅行というアイデアで始めた資料探しであり、勉強だったのだが、イタリア滞在をミラノの乗り換えだけにして、ミラノからチェコハンガリーを旅することにしようかと少し脳裏をかすめたが、「寒いぞ」という声がして、気がついた。イタリア以北のヨーロッパ旅行案は、寒いから当然廃棄処分だ。安い航空券はあるのだが、安ければ寒くてもいいとはならない。寒いところは、とにかくいやなのだ。だから、韓国旅行は1分で廃案になったのだ。ああ、どこに行こう・・・。