1256話 プラハ 風がハープを奏でるように 65回

 コーヒー

 

 前回で食文化の話を終える予定だったが、コーヒーの話をしていなかったのに気がついた。チェコのコーヒーについて、ちょっと書いておきたいことがある。

 私はコーヒーは大好きだが、エスプレッソが苦手なので(日本のコンビニ・コーヒーも薄すぎて嫌いだ)、スペインやイタリアではいつも「アメリカーノ!」と叫んでいたが、チェコのコーヒーは特別に注文しなくてもそのままで私の口に合う。そのチェコのコーヒーは、資料を読むと昔は「トルコ式」だったという。それが具体的にどんなものだったのか、『プラハの春は鯉の味』の力をまた借りる。滞在地の生活資料を詳細に書き残してくれると、私のような知りたがりには大いに助かる。

 コーヒーの粉を鍋で煮てカップに注ぎ、粉が沈殿するまで待ち、上澄み液を飲んでいたという。わかりやすく言えば、コーヒー豆の煎じ液だ。私はトルコやギリシャその手のコーヒーを飲んだことがある。インドネシアでは煮出さずに、インスタントコーヒーのようにコップに粉と砂糖を入れて、熱湯を注ぎ、よくかき混ぜたら、粉が沈殿するのを待つというスタイルだ。こういうコーヒーの特徴は、豆を非常に細かく挽いてあることで、普通の紙フィルターを使うと詰まりやすい。

 トルコのコーヒーもインドネシアのコーヒーも、焙煎は軽いので苦みはないし酸味もないが、当然、粉っぽい。私の好みでは、うまいとは言えない。

ネット上にはこういう情報もあるが、出どころが不明。飲み方はインドネシア式だ。

http://outdoor.geocities.jp/ksaitoh0/czechcoffee.html

 『プラハの春は鯉の味』には、さらに興味深い記述がある。著者がプラハに来た1995年は、「どこも、このターキッシュ・コーヒー一辺倒でしたが、1年も経つと、カフェでは黙っていても普通の、いわゆるブレンドコーヒーが出てくるようになりました」という。想像で書くが、プラハの飲食店では、1990年代後半から紙のフィルターを使う営業用コーヒーメーカーを導入したのではないだろうか。

 コーヒーの粉を鍋で煮るコーヒーを「トルコ式」と呼んでいるが、ギリシャでも同じコーヒーだ。そこで、ちょっと知りたくなった。東欧諸国のコーヒー事情をインターネットで調べてみた。

 ポーランドハンガリーなど、チェコの隣の国はもちろん、バルカンも煮出しコーヒーだ。バルト三国はわからないが、トルコからポーランドあたりまで、ちょっと前までコーヒーを飲むなら煮出しコーヒーだったらしいという仮説ができた。インターネットでは、現在のコーヒーの飲み方はわかるが、数十年前となると、わからない。東欧地域では、コーヒーは自国で生産できないから、ちょっと前まで混ぜ物入りコーヒーか、コーヒー豆がまったく入っていない代用コーヒー、つまりコーヒー風飲料を飲んでいたかもしれない。代用コーヒーの材料は、タンポポの根、チコリなどが有名だ。

 食文化をプラハという1点ではなく、ヨーロッパ、あるいは世界という面で見ていくとおもしろい。東欧をコーヒーで見ていくと、政治や経済もわかるような気がする。

 

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 散歩に疲れて、ショッピングセンターでひと休み。ひと口かじって、「ああ、写真!」と気がつくのはいつものこと。宿に戻れば、愛用のインスタントコーヒーがあるから、外でコーヒーを飲む機会はそれほどなかった。

 

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 マックカフェで、ひと休み。チェリーケーキに小(25コルナ)があるのがうれしい。アメリカンコーヒービッグサイズ(49コルナ)。合計74コルナ、370円。参考までに、メモしたメニューから少し紹介。数字を5倍すると日本円になる。エスプレッソ39、カプチーノ45、カフェラテ55。

 

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 ひと休みしたい。コーヒーを飲みたい。トイレにも行きたいと思った地区にはこういう高級カフェしかなく、腹をくくって入った。ウエイターに案内されて席に着くような店で、メニューを見て、「おお・・・」。高い。メニューに"American coffee"はなく、"Filter Coffee"を注文。これは、トルコ式でもエスプレッソでもなく、紙などのフィルターを使ったコーヒーのこと。ちょっと濃いめのアメリカンという感じなので、私の好みに合うのだが、ここのコーヒーは私には酸味が強すぎた。コーヒーとケーキを合わせて、300コルナ近くした。このケーキ1個が、私の普段の1回の食事代よりもかなり高い。

 隣りの席には、派手な腕時計をはめたポロシャツ姿の男と、お似合いのけばけばしい若い女が座っている。会計のとき、男はズボンのポケットからむき出しの札束を取り出し(当然、高額紙幣だ)、ゆっくり見せびらかし、支払った。フェラーリのような、品のない車が似合いそうな男だった。日ごろ、金持ちとは同じ空気を吸う空間にいない私には、成金観察代金込みのコーヒー代と考えれば、高くはないか。