2014-01-01から1年間の記事一覧

591話 ラジオの時代 4/4

体に歌を浴びたおかげで 小学校6年生の時に、父がポケットラジオを買ってくれた。それ以後、私はラジオ少年になり、現在もまだラジオを聞いている。AM放送の時代は、米軍放送を除けば、好きでもない歌が流れていることが多かった。前回書き出した多くの歌…

590話 ラジオ時代 3/4

奈良の山奥で 私は東京で生まれたが、1年ほどいただけで奈良の山奥に移った。物心がついた場所は、東西が山に挟まれた谷の村で、そこに1961年3月までいた。奈良の9年間のうち、前半は乳幼児だから、記憶があるのは幼稚園から小学校低学年までの間しかない…

589話 ラジオの時代 2/4

ブラジル音楽も、たっぷり聞いた。ただし、英米経由だった。 そういえば、ブラジル音楽を聞き始めたのも1960年代なかばからだった。これも私の個人的体験だけではなく、あの時代に外国の音楽に興味を持っていた多くの人が、ボサノバの波をかぶった。きっかけ…

588話 ラジオの時代 1/4

イタリア、フランスから歌が流れてきた 何の脈略もなく、突然「ミーナ」という人名が頭に浮かんだ。台湾の本を読んでいるときで、CDプレーヤーから流れていたのはドナルド・バードのジャズだから、ミーナとはまったく関係がない。ミーナという名を聞いて、…

587話 昔の話と私の昔

インドネシアの古都ソロの安宿で、オランダから来た若者と出会った。建築を学ぶ大学生で、卒業したら建築事務所に就職するか、それとも大学院に進んだ方がいいのかという判断がまだつかなくて、将来の方向を考える旅に出たといった。アムステルダムは気候を…

586話 ふたたび、コメの話

四方田犬彦の『ひと皿の記憶』(ちくま文庫)に、マニラの市場の話がでてくる。 「市場の屋台でビトロンを売っていたので、いい機会だと思って食べてみた」 フィリピンの市場で、ビトロン? 孵化直前の卵を茹でたものを、ベトナムでは発音記号を省略して表記…

585話 おっ、似ている

アメリカ映画を見ていて、あまり面白くないと、「この映画の日本版を作るとすれば、どうするかなあ」などと考えることがある。CIAが出てくるような映画では、リアリティーを持ったまま日本版を作ることはできないが、家族や愛情をテーマにしたヒューマン…

584話 ショルダーバッグが欲しい

今使っているバッグはいくつもあるが、ほとんどはトートバッグで、どれも合格点は出しているものの、満足しているわけではない。私の欲求に合致した、いいショルダーバッグが見つかるまでの「つなぎ」として、次点のバッグをバッグを買ったにすぎない。 トー…

583話 食文化研究者の「世界」

『和食の知られざる世界』(辻芳樹、新潮新書、2013)は、やはり辻静雄の息子が書いた本だなと思われる内容だった。この新書に載っている著者の経歴は以下の通り。 「1964年大阪生まれ。12歳で渡英。アメリカでBA(文学士号)取得。1993年に、父・辻静雄の後…

582話 時節柄、ゴーストライターの話を再録

芸能界に「松本伊代伝説」と言うのがあると知ったのはだいぶ前の話だ。その昔、テレビ番組で自分の本を宣伝している彼女に司会者が、「どんな内容の本なんですか?」とたずねたら、「あたしも、まだ読んでないんですけど・・・」と言ってしまい、はからずも…

581話 排泄文化論序章朝鮮編  その10 

焼畑、その他 まず、前回書き忘れたこと。トイレ博物館の名前「解憂斎」(ヘウジェ)というのは、寺院のトイレのこと。「解憂所」(ヘウソ)という表記もある。日本の禅寺でトイレを、「東門」(とんす、とす、とんす、などと読む)というような隠語である。…

580話 排泄文化論序章朝鮮編  その9  

続おまる この排泄文化論の「その3」で書いた肥桶の話を友人にメールしたら、「ソウルの国立民俗博物館で、その現物を見てきたばかりですよ」という返事をくれた。『庶民たちの朝鮮王朝』に出ている肥桶の写真が、まさにその博物館所蔵のものだ。肥桶を展示…

579話 排泄文化論序章朝鮮編  その8

おまる 朝鮮の旅行記を読んでいると、住宅の窓からおまるの内容物をあける人がいるから、家のすぐそばを歩かないようにという話題を何度かでてくる。フランスの便所史を読めば、かならず出てくる話だ。このことからも、朝鮮は「おまる」(屎瓶も含めて室内便…

578話 排泄文化論序章朝鮮編  その7 

『田舎暮らしの韓国人』 韓国人の思い出話にも、便所と灰の話があった。現在は日本に住んでいるちょん・ひょんしる氏は、1961年に仁川市で生まれ、10代は祖父母が暮らす全羅北道の農村で過ごした。1970年代の農村の家の便所を、『田舎暮らしの韓国人』(ちょ…

577話 排泄文化論序章朝鮮編  その6 

『アジア厠考』2 『アジア厠考』の、「韓国便所事情」を書いた新納豊(にいのう・ゆたか)氏は、執筆当時は大東文化大学助教授で、現在は教授。韓国を研究地域とする文化人類学、農耕文化の研究者だから、今回の私の関心と合致する。農村と深く結びついてい…

576話 排泄文化論序章朝鮮編  その5

『アジア厠考』1 私が持っている便所本のなかで、もっとも資料性が高いのは、『アジア厠考』(大野盛雄・小島麗逸編著、勁草書房、1994)である。編者たちがかかわる大東文化大学とアジア経済研究所の研究者たちが、それぞれが得意とする地域や分野の論文を…

575話 排泄文化論序章朝鮮編  その4 

『写真でみる朝鮮半島の農法と農民』 農学博士高橋昇(1892〜1946)は、1919年から26年間朝鮮半島の農業と農民を見てきた。日本に持ち帰った膨大な資料は、研究者や長男の手で一部が活字化されて出版された。それが前回紹介した『朝鮮半島の農法と農民』(1998…

574話 排泄文化論序章朝鮮編  その3

『庶民たちの朝鮮王朝』 2 『庶民たちの朝鮮王朝』を読む前に、朝鮮半島では人糞肥料を使っていたという事実はすでに知っていた。韓国ドラマ「イ・サン」(韓国で2007〜08年放送)だった。18世紀後半の時代設定だ。高官のホン・グギョンが下野してついた職が…

573話 排泄文化論序章朝鮮編  その2 

『庶民たちの朝鮮王朝』 1 ある日、本屋の棚に『庶民たちの朝鮮王朝』(水野俊平、角川選書、2013)というタイトルの本を見つけた。もしかしておもしろいかもしれないと思い、目次を点検すると、「・・・乞人。便所。下水道・清渓川・・・」という項目が見…

572話 排泄文化論序章朝鮮編  その1

そもそもの話 いままで不定期ではあるが、年に一度くらいは便所本特集をやってきた。日本語の本はかなり読んだので、革新的なものはもうほとんど望めないので、もっぱら外国の本を紹介してきた。2013年の秋にもアマゾンで検索したのだが、めぼしいものは見つ…

571話 ラオスと米の話

古本屋の棚を見ていたら、「ジャポニカ」というタイトルが見えた。米の話かと思ったら、ラオスを舞台にしたマンガだった。『ジャポニカの歩き方』全7巻(西山優里子、講談社、2011〜2013)の第1巻は、著者の子供時代のラオス体験から話が始まる。父が外交官…

570話 『母と旅した900日』

母は旅に出たいと言った。知らない世界を見てみたいと言った。チベットに行ってみたいと言った。いままで苦労ばかりの人生で、旅行などしたことのない母の夢を、息子はすぐに実現させたいと思った。カネのない息子はリヤカーを改造して、木の箱をつけて母用…

569話 翻訳された世界文学

前回、セネガルの作家センベーヌ・ウスマンのことを書いていて、いくつかのことを思い出した。まず、彼の『セネガルの息子』という小説のことだ。この小説は、1963年に藤井一行訳で、新日本出版社から出ている。「アフリカ文学日本語訳一覧」を点検すると、…

568話 まず、日本を知るということ 

インドネシアの旧都ソロのゲストハウスで、おもしろい経歴の若者と会った。ジャワ島出身だが、バリでレゲエのミュージシャンだった。酒とマリファナと女の日々を過ごしていたが、人生に思うところがあり、正しいムスリムの道を歩むことにしたのだという。遠…